──小説にも映画にも、主人公のサヤが知り合ったおばあちゃんから「大事にするんだよ、そういう時間をね。子どもとぴったりくっついていられる時間なんて、あっという間に終わってしまうんだから」というセリフが出てきます。

 書いたときはまだ子どもが小さかったけれど、今しかない貴重な時期だと思っていたので。

 うちは一人っ子ですが、初めての子どもの成長は、毎日が新しい1ページという感じで、面白いですよね。

子どものおかげで新しい世界が広がる

──『ささら さや』でも、主人公サヤは、子どもができたことによって、それまで出会わなかった人と出会うことになります。

 夫婦二人だけではなかなか世界って広がっていかないと思うんです。だけどそこに子どもが加わることで、何か本当に思いがけないことがあったりする。

 子どもの趣味でそれまで関心のなかったことに詳しくなったり。私も子どもが好きなので、AKBにすっかり詳しくなっちゃって(笑)。結婚もそうですけど、新しい世界が広がる感じというのは、面白いですよね。

――作品の中でも、子どものために、夫を亡くした悲しみをぐっとこらえて、サヤが新しい世界への一歩を踏み出しますね。

 そうなんです。新しい場所に行って、そこで色々な人に会って、物語がどんどん広がっていく。私はそういう扇形に広がる感じのお話が好きなのですが、実生活でも子どもができると、世界がそうやって広がっていきますよね。

 子どもができないと出会わなかった人っているんです。PTA仲間なんてその典型です。

PTAは雑多感が苦痛でもあり、面白くもある

──加納さんには、働くお母さんがPTA活動に苦闘する『七人の敵がいる』(集英社文庫)という小説もあります。

 ある程度の年齢になると、友達もかなり選んで付き合いますよね。だけど、PTA仲間は選ぶことができない。好むと好まざるとにかぎらず、関係なく一緒くたにされて、グループの中で「はい、これをやりなさい」と仕事を与えられちゃう。あの雑多感が苦痛でもあり、面白くもありますよね。

――そのころは今より働くお母さんも少ない時代。苦労も多かったのでは?

 いえ、東京住まいのせいか、働くお母さんは多かったですよ。今も、子どもが小さなお母さんたちとお話をする機会がありますが、聞くとやっぱりなかなか厳しい道のりみたいですね。『七人の敵がいる』に関しては、いまだに「共感しました」という声を頂きます。身につまされる方は、今も多くいらっしゃるみたいです。