四季の移り変わりを感じられる保育をし、日々の手仕事を大切に考えるシュタイナー教育とは、どんなものなのだろうか? 自然との関わりや農作業を重視する教育を、都心の限られた環境でどのように実践しているのか知りたくて、シュタイナー教育を行っている都心のこども園を訪ねた。

子どもの本来の力を伸ばすシュタイナー教育

 気持ちのよい風が吹く朝9時過ぎ。東京・広尾の池や丘のある公園に子ども達が登園してくる。春から秋にかけて、外で思い切り体を動かしたい季節になると、「広尾シュタイナーこども園」では朝、公園に直接登園するようにしている。冬も外遊びはするが、気持ちのいい季節に自然の中での時間を満喫できるようにと、この体制を取っているという。特に暑い夏は、公園まで歩いてくるだけで子どもは体力を奪われてしまう。それならば、直接公園に集まって暑さがひどくなる前に遊べるようにしようという配慮からだ。

 訪れたのは、木曜日。昼食時に持ってきたお弁当を公園で食べる日でもある。子ども達はこれから存分にめいめいの遊びに没頭することができるのだ。

お弁当の入ったリュックをしょって、おやつを食べる広場へと移動
お弁当の入ったリュックをしょって、おやつを食べる広場へと移動

 シュタイナー教育とは、ルドルフ・シュタイナーがドイツで始めた。子どもが生まれてから成人するまでの約20年を段階的に捉えて、それぞれに合わせた働きかけをする教育実践。知性だけでなく、子どもの心や体、精神も含めた全人教育を目指すものだ。特に、7歳までの乳幼児期は子どもの体を健全につくることを中心に捉え、食事だけでなく、子どもが過ごす環境や暮らしのリズム、そして大人の言動やしぐさを含めた影響も重要な要素と考えている。

 園では基本的に、1週間同じことを繰り返す。カレンダーによってではなく、実体験によって1週間という時間感覚を子ども達が学べるようにしているのだ。

 月曜日はおもちゃやテーブルのワックスがけなど、室内のお手入れの日。火曜日は水彩画を描く日。水曜日はシュタイナー独自の「オイリュトミー」という歌や言葉、楽器に合わせて体を動かす日(オイリュトミストという専門家が行う)。木曜日は公園でお弁当を食べるピクニックの日。金曜日はいつも使っている部屋を磨く掃除の日。どれも子ども達は楽しみながら、一緒に行っていく。

2人で何やら見つけた様子。楽しそうに落ち葉で遊んでいる
2人で何やら見つけた様子。楽しそうに落ち葉で遊んでいる

 広尾シュタイナーこども園で大事にしているのは、「自然の営みを感じること」と「大家族的なクラスで過ごすスローライフ」。週5日制の3~5歳クラスは、15名程度。年齢で分けない縦割りクラスで、みんなが一緒に手を取り合って遊ぶ。

 戸外での自然遊びを大事にし、虫、草花、果実、野菜などを通していのちの尊さを伝え、草花の手入れなども行わせる。普段の生活ではみんなが一緒に遊び、一緒に食事をする。食事は無農薬の玄米と旬野菜を使ったもの。おやつも自分達で作るところから始めるというこだわりだ。

自然の営みと大家族の温かさを感じる園に

 「シュタイナーというと、特別なことのように思われますが、昔から大事にしてきたことをそのまま実践しているだけなんです。子どもである時期を今だけと切り離すのではなく、人としてどう育っていくのか、すべてはつながっているのです。食べるもの、体の成長、人間の本質として大事なこと…。人として一生持ち続ける大事な真ん中の芯の部分を育ててあげるのが、シュタイナー教育の考えなんです」

と、園長の赤川幸子さんは話す。自身の子どものことで悩んでいた時期に出合った本が、偶然にもシュタイナー教育の本だった。それまで教育に詳しかったわけではないが、自分が子育てで大事にしてきたことをそのまま文章にしてくれたような気がしたという。本との出合いから勉強会などにも参加するようになり、2008年、東京・高輪に高輪シュタイナーこども園を開園。そして、2011年に2園目となる広尾シュタイナーこども園をスタートし、今に至る。