子どもの力を信じて、見守るのが先生の役割

 特に他の園との違いを感じたのは、先生の役割だった。子ども達が遊んでいるのを先生達はじっと見守る。もちろん、危険なことがないように目を配り、みんなが見える位置にはいるが、「みんなでこれをしよう!」「こっちきてー!」といった声掛けはまったくない。とても静かに、穏やかにそこにいる、といった様子。

 「必要以上に子ども達に指示を出したり、大きな声を出したりすることはしません。子ども達が自分で遊びをつくって、自分で危険なことにも対応していくのを見守ります。例えば、ある虫や植物を前に『みんな見て、これが○○という花ですよ』とあえて教えることはしません。子ども達がそれに気づいて、互いに話したり調べたりしたければそれでいい。通り過ぎてもいい。子ども達は植物や虫が生きて育っていることを知っているので、咲いている花をとったり、虫を連れて帰ったりはしないのです」と赤川さん。

先生が見守る中、みんな自由に遊ぶ
先生が見守る中、みんな自由に遊ぶ

 ちょうど公園内を歩いているときに見つけたカメムシも、見つけた子どもの周りにみんなが集まってきて眺めていたが、先生は一緒に眺めるくらいで、特に何かを教えようとはしなかった。見つけた男の子はカメムシを手で捕まえたかと思うと、みんなで眺めた後、またすぐ横の木に放してあげた。すべてが自然な動きに見えた。

 場所を移動しようと、それぞれがリュックを背負って坂道を下る。年少クラスの子がリュックの重さに転んでしまっても、「大丈夫?」と先生達は声を掛けるものの手は出さずに見守る。その子が半べそをかきながらも、自分で立ち上がるのを待っているのだ。

 「転んだとき、自分で立ち上がるまで待ちます。ケガをしていればもちろんすぐに対処しますが、そうでなければ自分で立ち上がる力を信じて、待ってあげるんです。泣いているときも同じです。そうしないと、これから大人になっても人のことを責めたり頼ったりする人になってしまう。本人が自分で解決する力を培う機会をつくってあげることが大事なんです」

 彼は一生懸命起き上がり、先を歩く子達を追いかけていった。私達が追いついたころには、リュックを置いて、他の子達と元気いっぱいに走り回っていた。

木に止まっているカメムシを発見。みんなで眺める
木に止まっているカメムシを発見。みんなで眺める

 先生達は必要以上に声は掛けないが、周囲の大人の言動をすべて子どもがまねすることを考慮に入れて、大人達は行動するべきだというのがシュタイナー流。園で子ども達が遊んでいるとき、先生達は何かしら手仕事をしている。とはいえ、子ども達の様子を把握できるよう、書類を書いたりパソコンに向かったりといった事務作業は一切しない。テーブルや椅子を磨いたり、壊れたおもちゃを直したり、人形を縫ったりと、どれも子どもが自然と目にしてまねし学んでいける手仕事をしているのだ。

遊びもおやつも自分達で一から作り出す体験を

 園での遊びは、どれも子ども達が自然に生み出し、始めることが多いそう。室内にあるおもちゃはすべて、自然素材。ひも、木綿の布、木の実、積み木などがあるが、例えば積み木も形が整えられたものではなく、自然の木や枝の形を生かした、スタッフによる手作りだ。テーブルや椅子は、木工作家による作品。おもちゃは遊びの道具であり、どう遊ぶかは子ども達が考え、使っていく。

 外での遊びも同様で、公園にいても滑り台やジャングルジムで遊ぶ子どもは一人もいない。ちょっとした起伏の斜面に上り、小川をのぞき、枝を集めて隠れ家を作ったり、草を集めて掃除ごっこをしたりと、遊具は一つも要らない様子だ。