演奏者の“失敗”も含め、その場をまるごと体験するのがライブの醍醐味

――最近はダウンロードした音楽で満足する人も多いようですが、音楽を「ライブで聴く」ことの良さは何でしょうか。

 録音された音楽は、録音時にミスをしたとしても、編集でそれがうまく修正されてしまうことが多いんです。そういう“完全”な音だけを聴いていても、聴く側のセンサーは磨けないんじゃないかな。ライブだと、色々なことが起こる。もちろん指揮も間違えるし、キズがあっても感動的な演奏になることもある。それが人間です。“ああ、この人達も人間なんだ”と思える。それでいい。ライブではいろんな出来事があるけれど、それらをひっくるめて“丸ごと”体験してこそ、「音楽鑑賞」なのではないかと思います。

 インターネットやスマホ、ゲームで育ち、ハイの周波数とローの周波数をカットした音に慣れた、いわばブロイラーのような状態で育った今の若い人達は、僕には“この状況で育った人間が大人になったとき、どれだけの想像力を獲得できるか”という生体実験をやらされているように見えます。今から10年、20年経って“体にはどこにも異常はないが、うまく人とコミュニケーションが取れない”ような大人に育ったとしたら、その原因は明らかですね。

 よく、電車内で子ども達に“静かになるから”とゲーム機を渡して、自分もスマホをいじっている親御さんを見かけるけれど、手抜きしてるなあ、と感じます。僕は3人の子ども達が小さかったころ、カルタとか、おもちゃを手作りしましたよ、子どもに受けようとして(笑)。自分が楽しんでいたんですけれどね。音楽にしても、お母さんの子守歌を聴かせて、キーボードではなくピアノでいたずらをさせる。そんななかで、何かが育まれていくかもしれませんよ。

(取材・文/松島まり乃 写真/大窪道治)

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