同じくセミナーに登壇した児童精神科医の渡辺久子先生は、多くの母子を見てきた経験からネウボラについてこう話す。
 「精神科にかかる多くの子どもを見てきましたが、お母さんの精神サポートが必要なことをいつも感じていました。ネウボラを通して学べることは、私達が本当に大切にすべきこと、本質を取り戻せるのかということです。子どもに何かあったとき、すぐにネットで調べて不安を感じたり、パニックに陥ったりするお母さんも多い。対話を大事にするネウボラは、人のつながりの本質を見ています。ネウボラは、そこにいくとホッとする、お母さんにとっても羊水に包まれた子宮のような世界。信頼でつながっている場所ですね」

 ネウボラには乳幼児が遊べるスペースもあり、親子で散歩がてら立ち寄って遊ばせたり、そこに来ている他の親子と交流したりする場にもなっている。

親の婚姻や経済状況を子どもに影響させない支援

 出生率の低下に悩む先進国の中でも、フィンランドの出生率は1.8(2012年)と比較的高い水準を維持している。一方で、初婚カップルの約3分の1以上が5年後には別離・離婚しているという調査結果もあると高橋先生は話す。さらに、結婚していないカップルでも婚姻カップルと同じような権利が認められるフィンランドでは、未婚で出産する人も少なくない。それでも、親の関係が出生率や子どもの育成に直結した問題にならないのは、こうした支援があまねく誰にも無料で提供されること、社会保障が適切に機能しているからにほかならない。

 「家庭の事情で子どもの人生の選択肢が奪われるような状況は回避しなくてはいけません。日本では、先にリスクを想定し、それをどう回避するかという考え方で子育て支援などが組み立てられている場合が多いです。しかしフィンランドでは、子育ての入り口から全体を見て切れ目なく支援をしていくことで、後々起こりうるリスクや事件を回避できるようにしているのです。日本の大きな問題となっている子育てしている母親の孤立も、フィンランドでは出産前から続く支援をするネウボラがあるので起こりにくい問題です」

 と、高橋先生。
 フィンランドでは国公立ならば大学まで無料で通うことができる。貧困の世代間連鎖や格差拡大の歯止めのためにも、親の状況が子どもの選択肢を狭めないようにする対策が考えられているのだ。