ネウボラについて解説した吉備国際大学の高橋睦子先生は、ネウボラの役割をこう説明する。
 「ネウボラで行うことのメーンは、対話。話すことなんです。こまめに話を聞き、家族に寄り添うことが第一です。そして、母と子どもを中心としつつも、父やその子のきょうだいも含めて家族全体を支援してくれます。ネウボラの保健師は、そうした精神的ケアも含めいろんなトレーニングを積んだ人達なので、家族は信頼と親しみを込めて“ネウボラおばさん”と彼女達のことを呼んでいるんです」

妊娠が分かったら、病院ではなくまずネウボラへ

 そんなネウボラに通い始めるのは、まず妊娠が分かったとき。妊娠の兆候があったら病院ではなく、自分の地域のネウボラへ向かう。健診は無料で、妊娠中は6~11回健診に通う。健診では医療的なチェックだけでなく、妊婦の不安や悩み、さらには家族の状況まで面談で細かに聞き取りをする。
 夫も何度か一緒に参加する必要があり、夫婦の関係から経済状況、子どもを迎えることへの不安などまで聞き取りをする。中には、日本ではプライバシーに関わり過ぎじゃないかと言われてしまいそうな質問も多くある。例えば、夫婦間でもめ事が起きやすいのか、そんなときどうやって解決しているのか、子どもを育てるだけの収入があるのか、夫婦間の性交渉まで話は及ぶ。夫が子育てに対して何を不安に思っているのか、夫婦で笑い合うことができる関係なのか…そんな内容を妻と夫両方に質問しながら話し合っていく。妊婦だけでなく、新しく親となる夫婦として2人を一緒に支援していく。

 こんなことができるのも、ネウボラでの面談が必ず個別に行われるからだ。1回30分~1時間程度の面談時間がとられ、プライバシーの守られる部屋で毎回同じ「ネウボラおばさん」と話をする。話を聞いて必要があると判断されれば、医療機関、自治体の担当者、児童施設などにつないでくれるうえに、その時々で必要な情報もそれぞれの機関できちんと共有される。病院に行って改めて説明…なんていうことをしなくていいのだ。そして、またその治療や対策が行われながら、ネウボラでの面談も行われるので、常に自分のことを分かっていてくれる場所が確保でき、妊婦にも安心だ。

母も子も同じ場所で健診が受けられる安心感

 出産は病院だが、産後からまた子どもやお母さんの健診はネウボラを中心に行われる。必要に応じて医師が来ることもある。日本では出産までは産婦人科、産後は小児科など健診に向かう先も変わってしまうが、フィンランドではネウボラでそのほとんどができる。例えば、産後から1歳までの期間では、ネウボラでの健診は保健師によるものが10回、医師によるものが3回ある。それ以外にも歯科検診などを受けたり、不安があればすぐに立ち寄って相談できたりする。