集団の中で影響し合い、リーダーシップを育む場

 ひもんや学童保育クラブの職員は常勤職員3人、非常勤職員3人と区内ではマックスの人員配置となっている。受け入れ人数が多いということもあるが、より配慮が必要な障がいを持つ児童に対応するためでもある。

 半日取材して感じたのは、常に職員が子ども達に注意を払っているということ。何かうまく思いが伝わらなくて廊下などでふてくされた子どもがいると、すぐに駆け寄って話をするといった光景が何度も見られた。保育園と同等、あるいはそれ以上に、職員が一人ひとりの子ども達を見ている印象だ。

 さらに、子ども達が、最上級生の3年生を中心にお互いを思いやったり助け合ったりする感覚を身に付けているように見えた。例えば、障がいを持つ子どもが何か不機嫌になっていると、近くにいる子ども達が話しかけて、一緒に遊ぶというようなこともごく自然に行われていた。

 こういった光景が見られるのは、やはり目黒区の学童の伝統でもあるようだ。

 「一人ひとりが落ち着ける場所というのもありますが、集団のなかで補い合ったり助け合ったり、ケンカも含めて影響し合う場所が学童なんだと思います。学童は常に縦割りで異年齢の子達が一緒にいるというのが、学校とは大きな違いだと思いますし、そこから得られることってすごく大きいと思っています」(館長)

 さらに館長は、こう続けた。

 「上の学年の子が下の子の面倒を見るというだけではないんですよね。いい影響ばかりではなく悪い影響もあるかもしれませんが、下の子達が上の子達に憧れたり学んでいったりするなかで、たくましさも育つと思います」

 もちろん、小学校でも縦の関係での異年齢の交流はあるが、その時間はごく限られたものだ。目黒区の学童で過ごす子ども達は、どの学童にも縦割りの班があって、3年生を中心に話し合い、お互いを支え合うようになっているのだという。

 指導員は、こう言う。

 「例えば、ここでは、学童での活動を子どもに決めてもらいます。最近だったら、片付けを少し強化しようとか、そういった子ども達なりの課題を見つけて、みんなで話し合ってやっています」

掃除や後片付けは班ごとの当番制

班ごとに話し合って目標を決める

 「手前味噌的なところもあるかもしれませんが……」と前置きしつつ、館長は言った。

 「中学校の生徒会や小学校の児童会の活動などでは、学童保育経験のある子が積極的だという傾向があるようです。生徒会の名簿でも、学童出身者の名前を見かけることが多いんです。特に中学校で生徒会長をやっているケースも少なくありません」

 前出の指導員は、「班が一つの国や村であって、3年生は村長。1~2年生は村人だよねって話をしているんです。3年生の班長は、それぞれの班が自分の国や村だから、しっかり責任を持って、その中でみんなで話し合って目標を作るんだよ、といつも伝えています。そんな経験の積み重ねがリーダーシップを育むことにつながっているのかもしれません。小学校の先生と話す機会がよくありますが、学童経験のある子は周りとの協調性があるとか、積極的に発言する子が多いという話をよく聞きます。うれしいですね」と言う。

 遠慮がちにではあるけれども、そういう話をうれしそうにしている職員の顔を見ていると、目黒区の学童保育の質が高いといわれている意味が、何となく理解できた気がした。

 これまで、当連載では東京23区内で進む「全児童対策事業と学童の一体化」の草分け的存在である世田谷区の新BOPと、逆にその流れに乗らずに学童の質の高さを維持している目黒区の学童保育クラブを取材してきた。そのなかで思うのは、待機児童問題のない新BOPにも、目黒区の学童にもそれぞれに良さがあるということ。学童の過渡期といわれるなかで、今後、両方の良さを併せ持つ学童ができることを願いたい。

 次回は、実際に学童を経験した保護者の方々に集まっていただき、座談会を開催します!