先行きが不透明だからこそ、一定人数が受験する

 しかし、今なぜこのように12歳の進路は複雑化しているのでしょうか? 安田さんに聞いてみました。

 「かつての中学受験といえば、ごく一部の恵まれた家庭が、将来より良いポジションを子どもに与えるためにさせたものでした。その傾向は1991年まで続きましたが、バブル崩壊を機に減少しました」

 「ところが、2000年に公表された国際学力調査(PISA)で日本の順位が下がったこと、2002年からの学校完全5日制の実施で学習時間・学習内容が大幅に減ることから、学力の低下が懸念されるようになったのです」

 「そこに大手中学受験専門塾の『このままでは日本の子ども達の学力が危ない!』というキャンペーンが加わり、子どもの将来に危機感を覚えた親が増え、再び中学受験者数は急増。しかし、2008年のリーマンショックで不況になり、ご家庭の財布事情が厳しくなると、受験者数は減少していきました。このように、中学受験は世の中の景気に大きく左右されるものなのです」

 「ところが今は、進学実績を伸ばしている公立中高一貫校の存在があり、取り立てて裕福な家庭でなくても、受検をすることが可能になっています。また、先行きが不透明な世の中だからこそ、わが子には高い学力や学歴を与えたいと考える親が増え、景気の浮き沈みにかかわらず、ある一定人数の子どもが中学受験をするようになっているのです」

地元の中学は本当にダメ? 周りの噂より自分の目で確かめて

 では、地元の中学校では、本当にダメなのでしょうか? わが家の地域でいえば、そんなことは全くありませんでした。けれど、公立中学校は、そのときに在籍している生徒によって、学校の様子がガラリと変わってしまうことがあります。何年か前までは、真面目で好印象だったのに、最近はちょっと生徒の雰囲気が違うな、なんてことがよくあるのも事実です。

 けれどもその判断は、各々の主観によるもの。たとえ同じ学校を見ても、「このくらいならかわいいものよ。私の中学時代なんて……」と思う人もいるでしょうし、「こんな環境ではやっぱり心配……」と思う人もいるでしょう。結局のところは、親が自分の価値観と照らし合わせ「この学校ならうちの子はやっていけそう」と判断するほかないのです。

 では、仮に地元中学への進学ではなく、中学受験を選択するとしたらどうでしょう? 

 現在、首都圏には約300校の私立中学校と12校の国立中学校、19校の公立中高一貫校があります。その中には、男子校、女子校、共学校があり、宗教系とそうでない学校があります。また、大学までエスカレーターで行ける附属校もあれば、大学附属校ではあるけれど外部進学が主流という学校もあります。

 こうして見てみると、中学受験をするという選択は、地元の中学校へ進学させる以上に、親の価値観が問われることを頭に入れておく必要があります。学校選びに関しては、この連載の中で後ほど詳しく紹介していきます。