周りは独身者か、既婚者でも子どものいない人、または妻が専業主婦だったりするので、みな仕事だけに集中できている。自分だけがバタバタと走り、走っているわりには仕事が中途半端なのが、何となく格好悪く思えてしまう。
「おそらく、周りからは『何か落ち着かなくて大変そう』って思われていることでしょう。そう受け取られるのもイヤですよね」
加山さんも、「自分が職場で浮いている」と感じるような出来事があった。
ある時、子どもが熱を出したが、その日は妻が仕事を抜けられず、自分が病院に連れていくことになった。無事、受診が終わり、やっとの思いで午後から出社すると、周囲から冷たい視線を感じたそうだ。
「きっと『何で、奥さんが病院に連れていかないの?』と思っているんでしょうね。会社としては『子どもの用事で休んだり、出社を遅らせたりしてもOK』なんですが、身近にいる上司も同僚も子どもがいないだけに、理解してもらいにくい雰囲気があります」
制度がいくらあっても、直属の上司や同僚からの理解が得られなければ「休みたい」とは、やはり言い出しにくい。普段はあまり感じないが、なにかの拍子に自分の家庭の事情を会社に持ち込んだ時、周囲の目は意外にも“厳しい”ことに気づくのだ。
「もっと、僕たちのような共働きの社員が働きやすい環境にならないだろうか――」
そう考えた橋口さんは、以前、会社の労働組合に対して、子どものいる共働き社員をサポートするような就業規則を新たにつくりたい、と提案したことがある。
しかし「利用者がほとんどいない」と、すぐさま却下されてしまった。会社は古い体質で、「男は仕事、女は家庭」という考え方が、今も色濃く残っている。