運動会もお遊戯会もなし。行事より日々の子どもの成長を重視

 一方で、この園にはほかの保育園では当たり前のように行われている運動会やお遊戯会などの行事はない。あえてこうした行事をしない理由を六本木園の岩井久美子園長が話してくれた。

 「運動会やお遊戯会をするためには、たった1日のために長期間子どもに何度も同じことを繰り返し練習させないといけません。子どもは教えればこなしてしまう力を持っていますが、それが本当に必要か見極めるのは大人の役割。子どもたちは毎朝保育園に登園してくるときも違う気持ち、違う経験をもって来ます。そこに何かを一斉に無理にやらせる必要があるのでしょうか。1人1人の子ども、その時の気持ちや成長に合わせた活動を保障してあげるのが保育士の役割だと思っています。運動会やお遊戯会がなくても、子どもは毎日成長しています。何かができたとき、伝えたいことがあるとき、振り返ったときにちゃんと気づいてあげられる大人、保育士がいることを大事にしたいと思っているので、私たちにとっては毎日が重要。だから、行事のためにその時間を奪いたくはないんです」

 話を聞きつつ思い出した自分の子どもの運動会。まだ2歳のときから運動会のために、開会式や閉会式の入退場や体育座りで話を聞く練習を1カ月前からさせられていることに、違和感を感じた。できあがったものを見る親は、確かに感動する。でも、そこまでの練習に費やされる長い時間は本当に子どもが希望しているものなのだろうか。当たり前だと思っていた行事を一から見直していることが、とても新鮮で斬新に感じた。

 この園では、工作などを行うときも何日かの期間をとり、その子の気分ややり方を見ながら進められるようにしているという。

 「子どもが何かに興味をもったときに、それを生かしてあげられる時間を行事の練習などで無駄にしたくないと思っています。子どもたちが自分を表現していいんだと思える環境にしてあげたいですね」と松本さんも付け加える。

 他の保育園のように、この園でももちろんみんなで散歩に行ったり、午睡をしたり、絵本を読んだりといった一緒に行う活動はある。ただし強制はしない。それぞれの子どものそのときの気持ちや状態を大事にするという。

泊まりがけの森のキャンプは雨に見舞われたが、それも良い思い出になった。「でも、葉っぱに落ちる雨の音や散歩道の香りなど、子どもには絶好の機会でした!」(松本さん)
泊まりがけの森のキャンプは雨に見舞われたが、それも良い思い出になった。「でも、葉っぱに落ちる雨の音や散歩道の香りなど、子どもには絶好の機会でした!」(松本さん)

 「散歩も普段の生活も、いっぱい寄り道や道草をすることを大事にしてあげたいと思っています。そこから子どもは自分なりの道を見つけていきます。大人の理由で動かすのではなく、生活の主人公は子どもだと思っています」と岩井園長。

 園内は高い壁はなく、スペースは棚などで区切られているものの、基本的にはオープン。子どもたちの基地になりそうなロフトや棚で区切られたスペースで、子どもたちは思い思いに楽しんでいた。午睡のタイミングがずれて後からオヤツを食べている子などもおり、一人ひとりのペースで生活しているということが伝わってきた。

4、5歳クラス。棚で区切られたスペースで何やらひそひそ楽しそう!
4、5歳クラス。棚で区切られたスペースで何やらひそひそ楽しそう!