「作りたかったのは、地域ぐるみで子どもを育て、育みあうような環境。核家族化、長時間労働などで、子育ては“孤育て”と言われるほど若いお母さんたちが一人奮闘しつつも孤独を感じているのが現実だと思います。保育園で過ごす0歳から6歳という人格形成の大事な時期に、保育士と母親という女性ばかりに子育ての負担がいき、関わる範囲も狭まっているのはよくないですよね。地域には子育てが終わった経験豊富な人々や、アクティブシニアと呼ばれるまだまだ元気な方々がたくさんいます。様々な年齢層や経験を持つ人々が子育てに関わることで、お互いにさらに良い影響を受け、地域全体もよい環境になっていけるはずです。子どもの環境を作るのと同時に、大人と子どものつながりを作ることも大事。保育園としてできる取り組みは多くあると思っています」

2歳クラスの給食時間。動き回る2歳クラスは、男性保育士が3人中2人と元気いっぱい
2歳クラスの給食時間。動き回る2歳クラスは、男性保育士が3人中2人と元気いっぱい

 今や保育園に求められるのは、ただ子どもを預けられる場所だけではない。親へのサポート、地域とのつながり、新たなコミュニティの1つの中心的な場所としての役割も求められているのだ。以前は簡単だった近所の付き合いやつながりも、人の移動が多く、各家族も多い現在では難しくなっている。この六本木園は、超都心にありながら、そんなつながりを作り出す拠点のような存在になりつつある。

園と地域をつなぐコミュニティコーディネーターという存在

 まちの保育園という名前からも伝わってくるように、大事にしているのは地域全体で子育てできるような環境づくり。

 1園目の小竹向原園には、コミュニティの場としてのベーカリーカフェも併設し、地域の人の憩いの場となっている。この六本木園でもカフェを計画中だが、ここでは新しく“コミュニティコーディネーター”と呼ばれる存在ができた。保育士でも保護者でもなく、保育園と地域や保護者をつなぐ役割だ。事務的な仕事もあるが、基本的には決まった枠組みはなく、地域と一緒に保育園を作っていくために媒介役となって動いていく。

 六本木園のコミュニティコーディネーターは、美術業界での経験を持ち、自身も小さな子供を持つパパである本村さん。これまでも同じ近隣にあるサントリーホールから鳥の巣箱設置を提案され、それならば子どもたちと一緒に巣箱を作るところから始めたこともある。その時も、鳥の専門家を園に招いて子どもたちと周辺の林を散歩して住んでいる鳥を探したり、鳥の体の構造について説明してもらったりしながら時間をかけて子どもたちが巣箱を作成できるようにスタッフと協力してきた。その甲斐あり、この春には園のすぐそばに設置した巣箱にシジュウカラなどが住み始め、子どもたちは大喜びで観察することになったそう。

 また、すぐそばの土地を借りて耕し、現在は“まちのガーデン”を作っている。これも地域の方や保護者が月に1度週末に集まって継続的に取り組んでいる。

月に1度週末に保護者も参加して“まちのガーデン”が作られている。
月に1度週末に保護者も参加して“まちのガーデン”が作られている。

 「東京では、土を耕したりするような農作業をあまりしたことがない方がほとんどで、周囲のタワーマンションでは近所づきあいがしづらい傾向にあります。そんな環境の中で保育園を通して保護者同士や地域の方とつながっていける機会を提供できればいいなと思っています」と、松本さん。

“まちのガーデン”は農業用ではない土地から石やガラクタを取り除き、耕すところから時間をかけて少しずつ作っている
“まちのガーデン”は農業用ではない土地から石やガラクタを取り除き、耕すところから時間をかけて少しずつ作っている

 ほかにも、近所にある昭和初期からこの地に建つ茶室で子どもたちのために茶室を開放してかまどでご飯を炊く作法を見せてくれたり、親子で泊りがけで森にキャンプに行ったりと、人々の声から生まれたイベントがいろいろある。そうした地域の人や保護者の声を大事に拾い、カタチにしていく役割をコミュニティコーディネーターが担っている。

 今年10月開園の吉祥寺園にも、新たなコミュニティコーディネーターが誕生する予定だ。