なぜこうなのかは、ちょっと考えれば分かります。昔は自営業や家族従業が多かったのですが、現在では、オフィス(会社)に雇われて働く雇用労働が支配的です。くらしの場(家庭)と仕事の場(職場)が分離する「職住分離」が進行した結果、今の子どもたちは、親が働く姿を目の当たりにすることがなくなっています。目にするのは、夜や休日に疲れてゴロ寝する親の姿だけ。こういうこともザラでしょう。

 しかし、わが国と同程度に職住分離が進んでいても、親の職業不詳率が低い社会もあることから(欧米諸国など)、理由は他にもありそうです。おそらく、仕事や将来のことについて親子で語らう機会が少ないことによるのではないでしょうか。

 日本の子どもは、「見る」「聞く」両面の就労モデルを持ち得ない状況にあるとみられます。親の職業不詳率の高さはその表れですが、このことが彼らの育ちにどう影響しているか。懸念されるのは、将来展望の欠如です。働く(仕事)はどういうことかについて、具体的なイメージを持ちにくい。よって、将来の職業志向も定まりにくい。こういう経路もあると思われます。

 国際統計にて、この点を吟味してみましょう。上記のOECD調査では、「30歳の時点で、あなたはどういう職業に就いていると思うか」と聞いています。具体的な職業名を書いてもらう形式ですが、先ほどと同様、「知らない」と「曖昧」の者の比率を出すと、日本は21.4%です。5人に1人が明瞭な職業志向を持っていないようです。

 56か国についてこの値(志望職未定率)を計算し、表1の父職業不詳率との相関をとると、下図のようになります。

資料:OECD「PISA 2006」の生徒質問紙調査
資料:OECD「PISA 2006」の生徒質問紙調査

親の仕事を知らない子の割合が高い国ほど、将来の志望が未定の生徒が多い

 クロアチアのような例外もありますが、 父の職業不詳率が高い国ほど、将来の志望職が未定の生徒が多い傾向にあります。相関係数は+0.551であり、1%水準で有意です。日本は双方とも高いので、右上の(不名誉な)位置にあることにも注意しましょう。ちなみに個人単位のデータでみても、父の職業を知らない生徒のほうが、そうでない者よりも志望職未定率は高くなっています。