育休復帰社員一人ひとりの以上に応えることが、全社員の利益につながる

 先ほどご紹介したマニュアルやロールプレイといった方法は大企業のA社ならではの工夫かもしれません。でも、中小企業が制度や法律にとらわれず、育休復帰社員を活かしているケースも多々あります。

 中小企業では人手が限られるため、「この仕事を担当している○○さんが育児のために時短でいなくなると困る」という問題が生じます。そんなときにも固定観念に縛られず、「この社員と担当業務を、今後も発展させていくためにはどうすればいいか」という視点から柔軟に考える会社はうまくいきます。

 逆に、「この社員のために特別な制度を用意したら、今後も適宜、制度を作り変えるようにしなくてはいけない。一人ひとりのためにそんなことをやっていたらキリがない」という考えに陥ってしまう会社は、うまくいきません。

 経済産業省が表彰している「ダイバーシティ企業経営100選」にも非常に良い事例がいくつもあります。

 例えば夫の転勤で海外へ行くことになった女性社員のために、正社員のまま海外での在宅勤務を認め、帰国してから通常勤務に戻したというケース。あるいは、育休明けでかつ家も遠くて大変なママ社員がいたときに、この際だからと在宅勤務のシステムを本格的に取り入れた、という中小企業の事例もあります。

 育休復帰社員を非常にうまく活用している、ある外資系企業のダイバーシティ担当者の言葉です。

 「一人ひとりの事情に100%応える」

 BさんにはBさんに合った対応を、CさんにはCさんに合った対応をする。無理して全体として捉えることはしない。そうすると、結果的に、全社員にとって非常に働きやすい職場が実現するのです。

 対応してもらった社員は「自分のために会社がそこまでやってくれた」と思って全力で仕事に当たりますし、周りの人も会社が社員一人ひとりを大事にしてくれるということを理解します

 要は社員をどう見ているかなのです。業績を上げるための駒としてしか捉えず、「できれば非正規社員のほうがいい」というくらいの考えでやってきた会社は、発想の転換が必要です。