そんなある日の夕方、妻から「友人とばったり会ったから、夕飯は食べて帰る」というメールが入った。このメールを見て、井口さんは「すごく腹が立った」という。

 「カーッと頭に血が上りましたね。せっかく妻と子のために栄養バランスを考えて準備したのに! もう作ってやるもんか!と。…でも、妻と結婚してから、何度も僕、同じことをしているんですよね。『急に飲んで帰ることになったから、夕飯いらない』ってね。妻は私に対して怒ることはありませんでしたが、ああ、少なからずこういう感情を抱いていたんだろうなと。ひとしきり腹を立てた後に気づき、大いに反省しました」

子どもに振り回され、終わる一日。妻の大変さが分かった

 幼い子どもに振り回される感覚も、十二分に味わった。子育て中は、自分には主体性がなく、すべては子ども中心に回る。やろうと思っていたことがあっても、子どもがウワーンと泣き出せば、その瞬間に計画は全て崩れてしまう。

 「仕事は、いくら忙しくても、自分が主体的に回すことができます。でも育児は、あくまで子どもが主体。子どもは本当にかわいく、3カ月間成長の過程をつぶさに見られたこと自体は幸せに思っていますが、振り回されるばかりの毎日は体力的にも精神的にもキツかったですね」

(写真はイメージ。記事とは関係ありません)
(写真はイメージ。記事とは関係ありません)

 子どもに振り回されて、1日が終わる。夕食を食べさせたら、もう、ぐったり。汚れた食器を片づけるパワーすらない日も多かった。

 「育休に入る前、自宅に戻ったら、洗い物もせず奥さんが子どもと寝ているケースが何度もありました。そのときは『洗い物ぐらいできないのか』と内心思っていました。あっ、口にはしませんでしたけどね。…こりゃムリだって実感しました」

 このように、たくさんの学びと反省を抱え、井口さんは3カ月後に職場に復帰した。戻ったとたんに忙しさの波に巻き込まれ、深夜帰りの日々が続いたが、朝の洗濯と、帰宅後の皿洗いは井口さんが受け持ったという。妻の大変さを、身を持って体感したからだ。