2010年、自治体の首長として初めて育児休暇を取得した東京・文京区の成澤廣修区長。成澤区長が育児休業を取得してから、自治体のリーダーたちが次々に育児休暇を取得。当時、「イクメン」の先駆者として注目を浴びた成澤区長は今、社会を育てる「イクボス」として安心して子育てできる地域社会を目指したさまざまな施策に取り組んでいます。文京区が目指す子育て支援の先にあるものは――その熱い思いを聞きました。

 私が育児休暇を取得しようとしたときは、社会へのPRというよりも、「家族をサポートしたい」という思いが強かったんです。個人的なことなので、実はこっそり取ろうと思っていましたが、思いがけず新聞の一面トップを飾ってしまい、波紋を呼ぶことになりました。

「育休を取りたいけど言い出せない」男性職員の「心の壁」を取る制度を導入

 2009年2月に記者発表し、4月に2週間の育児休業を取得。育児・介護休業法改正の施行が6月という目まぐるしい中で、「男性職員の育児休業等取得促進実施要綱」を作りました。職場の部下に子どもができたと聞くと、「育児休暇取得してもいいですよ、とりませんか」と必ず声をかけるというものです。まずは、「本当は取りたいけれど言い出せない」男性職員の「心の壁」になっているものを事業主のほうから取っ払ってあげるのが目的です

 毎日、手をつないでいるかのように残業をしている職場で、早く帰ることすら気が引けるのに、まして長期間休みを取りたいなどと言い出すのは難しいものです。そこに所属長が促すことが制度として導入されたので、現場からは声をあげやすいというプラスの効果がありました。

 ただ、男性の育児休業は義務でなくていいと私は思っています。例えば、子どもがうまれるタイミングで住宅を購入する人もいる。そんなときに、例えば2馬力が1.5馬力くらいになると金銭的なダメージもあるはずです。いろんな家庭があり、いろんな事情がある。だから、取るべきものではなく、誰もが利用できる選択肢の一つとしてあるべきなのだと思います。

男性の育児休業取得率、数字だけを追うのは意味がない

 今の文京区の女性職員の育児休業率は100%、男性は18.2%、全国平均(2.03%)の約9倍(平成24年度実績)ですね。とはいえ、私は、この数字にこだわりを持っていません。女性が育児休暇を取る場合は、通常数カ月~1年などの長期がほとんどなのに対して、男性の育児休業の場合は、とても短い。例えば私のように“なんちゃって育休”で2週間を取る人もいれば、たった1週間の人もいる。数カ月から半年以上の人は極めてレアケースです。それを女性と同じようにカウントしても意味がないなと感じています。

 でも、2009年時点で男性の育休取得率がゼロだった文京区がここまで取得率が上がったのは、私の取得が一つの突破口になったのは事実です。私に続いて育児休業を取得した第一号は共働きで、実質1週間くらいしか休んでいないのですが、ゴールデンウィークの長期休暇と有給休暇を合わせてトータル20日程度休んだんです。取り方も工夫次第。彼はその後仕事の実績を上げ、今年の春、課長に昇進しました。