公私それぞれのフィールドで自分の価値観や思いを発信していく

 ワークショップの第一部で慶応義塾大学2年の新居日南恵さん(manma代表)は、「仕事も子育てもバリバリこなすスーパーウーマンの姿はメディアによく登場するが、女子大生にはそれ以外の女性の生き方・働き方を知る機会がないので、仕事と結婚・子育てを両立するイメージを持ちにくい」と発言した。

 仕事のほかに、子どもの園や学校、習い事や地域活動といった親だからこそ関われるフィールドにも属していることで、さまざまな人とのつながりがあることもDUAL世代の強みだ。公私それぞれのフィールドで自分自身の価値観や思いを発信していけば、多様な人々に「こんな働き方・生き方をしている人がいる」と広く知らせることができる。

仕事にまつわる体験談や自分の思いを話すことで、子どもに多様な価値観を伝えていくこともできる(写真はイメージ。本文とは関係ありません)
仕事にまつわる体験談や自分の思いを話すことで、子どもに多様な価値観を伝えていくこともできる(写真はイメージ。本文とは関係ありません)

 また、今回の野次のような明らかな性差別発言ではなくても、子どもが熱を出して急に仕事を休まなければならなくなったときに「これだから子どもがいる人は困る」と言われるなど、日本の社会では子どもがいることを“働くうえでのハンデ”と見なす風潮はいまだに強い。仕事復帰に向け、子どもの預け先を探しているとき、私自身を含め多くのワーキングマザーが「子どもが小さいときはお母さんがずっとそばにいてあげることが一番の愛情よ」と言われ、傷ついた経験を持っている。

 第一部で不妊体験者の支援に取り組む松本亜樹子さん(NPO法人Fine理事長)は、「問題の根幹にあるのは知らないということであり、知らないから相手を慮れない」と述べた。仕事のフィールドでは“子育てもしている者”として、プライベートのフィールドでは“仕事もしている者”として、「こんなことに悩んでいる」「ここは自分で対処できるが、この部分は助けてもらえると有り難い」と伝えることで初めて、周囲の人がこちらの状況に気づくということもあるのではないだろうか。

 性差別をはじめ、「これはおかしい」「解決したい」と思う事態に直面したとき、どう対処するか。これは親の課題であるとともに、子どもたちにもしっかりと伝えていきたいことでもある。

 ただ怒りをぶつけるだけでは、相手や周囲の理解を引き出すことは難しい。我慢して黙り込んでしまえば、相手は問題の存在にすら気づかないかもしれない。冷静になって、状況を変えるための戦略を考える。感情のままに怒ることも、黙り込むこともせずに、自分の気持ちや相手・周囲に期待する行動を伝えることが第一歩だ。

(取材・文・写真 安永美穂)