介護福祉士と自然体験教室のインタープリター(解説者)の二つの仕事に携わっている、参加者の鈴木智子さんは、意見交換の中で「今回の野次事件については小4の息子とも話をした」と述べた。「息子には、なぜこのような野次を飛ばしてはいけないのかを本人自身で学び取れるようになってほしい。この事件のことを話題にしたときは、『クラスの子に、相手が嫌がることを言ってしまったことはない?』と、息子が自分自身の問題として受け止められるように話をした」

 鈴木さんはさらに「子どもがいろいろな立場の人を思いやれるようになるには、“世の中にはさまざまな事情を抱えた人がいる”と知ることが大事」とも話していた。「だから、夕食のときに自分が仕事で出会った人の話をしたり、仕事の講習会に連れて行ったりして、息子が外の世界に触れられる機会を作るようにしている」

 鈴木さんの発言にあるように、DUAL世代は、これから価値観を形成していく子どもに対して、人権とは何か、ジェンダーにとらわれない生き方とはどういうものかを教えていける立場にある。これはごく当たり前のことに思えるかもしれないが、“未来の大人”である子どもたち一人ひとりに「“男だから”“女だから”ということにしばられる必要はなく、誰もが平等に自分らしく生きる権利をもっている」という意識を浸透させることができれば、それは未来を変えることにもなる。

仕事で得た価値観をもとに、さまざまな立場の人への思いやりを育む

 また、子育てのほかに、仕事というフィールドでも社会とつながっている共働き世代は、仕事にまつわる体験談や自分の思いを話すことで、子どもに多様な価値観を伝えていくこともできる。自分の“当たり前”が、ほかの人にとっても“当たり前”とは限らない。親が仕事を通じて得た価値観を子どもに伝え、さまざまな立場の人がいることを理解して他者を思いやれる“次世代の人材”に育てていけば、今回のような野次が笑って容認される日本の社会の雰囲気を改善することにつながる。

 しかも、子どもに自分の価値観を伝えることは、親である私たち自身にも学びの機会をもたらす。鈴木さんは「私の考え方がいつも正しいとは限らず、息子の意見を聞いてハッと気づかされることもある」とも述べていた。不思議だと思ったら素直に「どうして?」と尋ねてくる子どもの視点は、親である私たちにしみついている「世の中とはそういうものだから」という“誤った常識”を見直すチャンスを与えてくれるはずだ。