韓国と日本との取り組み姿勢の違いについて

 韓国では出生目標が数値化されていて、2020年までにOECD平均の出生率(1.6)まで回復するとなっています。そのために、家庭生活の質の向上や、子どもの人権に対する国の責任を法律で明確化するなど、徹底的に国策が施されています。

 それに比べて、日本の出生率目標値(骨太案)は「50年後も1億人維持」で、その前提は「2030年までに出生率2.07」とされています。その一方で、女性や子どもの生活改善に向けた国の責任や方向性は、あいまいなままです。

 私は、基本的には数値目標として出生率(あるいは出生数、総人口)を目標とすることについては反対の立場ですが、もし数値目標をあげるのであれば、韓国のように周りの体制もしっかり作るべきだと思っています。

 これらの韓国の取り組みを鑑みた上で、日本は今後どうすればよいかを考えてみると、次のようになります。

 まず、出生率上昇のみに期待するのではなく、将来の人材となる子どもの能力を最大限に伸ばし、女性が最大限力を発揮できる環境の実現を検討すべきです。諸外国の動向を踏まえた実効性のある施策の検討は、まだまだ不十分です。たとえば、単に企業に要請するのではなく、短時間勤務が選択できるように給付制度を設けるなど、さらに踏み込んだ取り組みが必要です。出生目標の数値目標は反対ですが、男性の育児時間や育児休業取得率、長時間労働の割合などは、現行どおり目標達成がどの程度進んでいるのか、政府として検証していくことには賛成です。

 その際、女性活躍支援の前提となる家庭の在り方についての議論が必要でしょう。韓国では、政府レベルで議論がなされ、2003年に健康家庭基本法が制定されています。今の日本では、「男は仕事、女は家庭」という意識が根強く残っていますが、女性に仕事か育児かの二者択一を迫るのではなく、男性の家庭生活への参画を推進していく必要があります。

 次に、保育に関しては、保育インフラの拡充と、限られた予算の下でいかに保育の質的充実を図るかという議論が必要になるでしょう。また、当事者の共感が得られる少子化対策の検討が必要です。人権をベースに、多様な家族形態や男女平等、子どもの権利などを踏まえた上で、子どもと親の幸福度を高めていくという方向性が必要です。韓国の「ファミリー・フレンドリー」に比べて「次世こ代育成支援」という言葉は、国家のための人口増加策をイメージさせるため、当事者の共感は得られにくいと思います。

 私は、少子化は「危機」ではなく、社会を変える「好機」となりうると考えています。イギリスでは、「イギリスの子どもを、世界中で一番幸せな子どもにする」という目標を掲げています。日本も、出生率を目標として掲げるのではなく、質的な数値目標を定めて、子どもや子どものいる家族の幸福度を上げることを通じて、出生率が上がらなくても、社会の活力を維持していく方向を目指すべきだと思います。

(文/オフィスマイカ 井上真花 写真/勝山弘一)