世界地図を開いて、出場国を知る

 こうなると、W杯が始まるころには、既にどの子も出場国について詳しくなっていた。「国旗を覚えていくことができるから、変な遊びをするよりずっといい」と“国旗覚え”を勧めていたお母さんもいたほどだ。

 比較的アラブやアフリカの人も多く暮らすバンコクだが、そう多いわけではないと思う。私が出会った友人でいえば、エジプト、リビア、ナイジェリア、南アフリカの4カ国くらい。娘には初めて聞く名前の国ばかりで、コートジボワールやカメルーン、アルジェリアなどは、今回のW杯がなかったら知らないままだっただろう。

学研の『めくってはっけん! せかいちずえほん』
学研の『めくってはっけん! せかいちずえほん』

 わが家では、W杯中に地図を開く機会も格段に増えた。お気に入りは学研の『めくってはっけん! せかいちずえほん』保育園から小学校低学年にぴったりの地図絵本だと思う。すべての国に触れているわけではないものの、日本と同じC組のギリシャやコロンビアについては、豆知識も載っていた。

 今はインターネットという強い味方がいるので、自宅の本や図書館では足りないことも、どんどん調べていくことができる。

 この本を開きながら、「どんな言葉を話しているのか」「暑いのか寒いのか」「日本とはどんな関係があるのか」、子どもが疑問に思うことがあれば、パソコンを開き、一緒に調べるようにしていた(…というか、親の知識が追い付かないときは、その場で調べるしかない!)。

 一方で、年の功もあって自分が経験していることは、できるだけ実体験に基づいた話をするようにしている。ユーゴスラビアの内戦後、バラバラの国になったクロアチアやボスニア・ヘルツェゴビナについては、私が現地で撮影した写真や当時聞いた話なども交えて、話す機会を持った。

 W杯がなかったら、中学生くらいになるまで話さなかったかもしれない。話す言葉は一緒でも使う文字が違う言語があること(クロアチア語とセルビア語)は不思議がって聞いていたし、戦後しばらく経っても行方不明の肉親を捜す貼り紙がたくさんあったことを話すと顔をしかめていた。

 W杯期間中は、試合がないときも出場国の話ばかりしていたような気がする。やはり、世界的なスポーツ大会の影響は凄まじいものがあると実感する日々だった。