羽生 尾島さん自身の中学生時代は、もっと荒っぽかった?

尾島 もっと荒っぽいし、ある意味でたらめだった。でたらめだけど、でたらめの中にもわずかな秩序があって、それをちゃんと守ることで友達関係が維持されていた。今はみんながいい子だよね。いい子だから問題が起こらない。逆に、「いい子じゃないと問題が起こる」という単純な図式になっている。それから、でたらめでもやるときはやって、勉強も自分なりの工夫を考えてやっていたよ。勉強法を自分で考えるということを、どうやら最近の連中はしない。私立の子は言われたとおり塾で勉強してきた子なので、言われたとおりにやるということはすごくできるし、地頭のいい子たちなのだけど、「工夫が足りないな、おまえらには」という感じがしないでもないね。それは公立中でも塾にばかり行っていたら同じかもしれないけど。

 自分の小学校、中学校の頃はさんざん遊びほうけていた時代だった。でも、仕事をしてみて思うのはね、ふと何かを思いついたときのベースって、その頃のことが影響している気がしてならないんだよね。その頃に、さんざん汚いどぶ川で遊んだ記憶とか、やぶの中でみんなで転げ回って遊んでた記憶とか。遊びから自然に身に付けていたものが、大人になっても体の真ん中にある気がする。

 クリエイティブな仕事をしている人の話を聞いても、やっぱり小学生や中学生のころの遊んだイメージとか、田舎のおばあちゃんちに行って遊んだときのイメージなんかが影響しているって言う人が多いですしね。

羽生 そういう「でたらめだけれど、体の真ん中に残る経験」をすることが、中学受験で損なわれているかもしれない、と。そこが尾島さんが中学受験の全部に納得しているわけではない理由ですか?

尾島 そうですね。結局はそこにつながる話ですね。 

羽生 そんな経験を補うために、息子さんにいろいろな体験をさせたのですか?

尾島 そこまで考えていたわけではないけれど、そこらじゅういろんな所に連れ回すってことはしましたね。自分が好きでもあるし。見たことがある、触ったことがあるという経験って、やっぱり大事ですから。塾には通っていたんだけど、4年生、5年生の頃はそんな体験が優先だった。

「ちゃんとした子」が公立中高一貫校に合格する

羽生 ところで、親が地方出身で、東京でダブルインカム子育て中という人には、何となく私立中学受験にモヤ~っとした気持ちがある。そういう人たちが望みがちなのが公立中高一貫校です。

尾島 公立中高一貫はね、またちょっと違うのですよ。地域や学校によってもちろん違うとは思うけれど、一般的に「クラス委員みたいな子」しか受からないとも言われているからね。授業中も積極的に発言して、いろんな意見が言えて、クラスを仕切ってきちっとやれるような子が合格する印象があるな。「ちゃんとした子」が受かる。正直に言うと、中学に上がってから内申書がダメそうな子は、公立中高一貫校の入学は難しいんじゃないかな。単純に「私立と公立のいいとこ取り」と思っちゃダメだと思いますよ。公立中高一貫校を、「私立の嫌な所がなくて、平凡な公立でもない」と思うのは、現実とは違うと思います。

羽生 ちゃんとしたクラス委員風の子だらけの学校というのも、良し悪しですね…(苦笑)。