2009年の政権交代後、2010年の民主党政権は「子ども・子育てビジョン」を打ち出し、
(1)子どもが主人公(チルドレン・ファースト)である
(2)「少子化対策」から「子ども・子育て支援」への転換が必要である
(3)生活と仕事と子育ての調和(ワーク・ライフ・バランス)」を実現する

 という、3つの方針が掲げられました。

 つまり「国」を主体とした対策ではなく「親と子という当事者」を主体とした対策へと変化したのです。この方針に含まれている「多様性を尊重」「格差や貧困を解消」「男女共同参画社会の実現」などは、国際的な基準に極めて近い内容で、実際に「子ども手当」や「高校無償化」なども実施されました。

 しかし、その後、自民党政権に戻ると同時に、「国」主体の対策に戻ることになります。現在は、「少子化の影響への対応」を促す子育て環境の見直しではなく、「少子化の要因への対応」に注目が集まり、子どもの数を増やす方向での議論が主体となっています。

出生率の目標数値を定めるのは、当事者に対する配慮に欠けている

 2013年6月の少子化社会対策会議で決定された「少子化危機突破のための緊急対策」では、今の状況を「社会経済の根幹を揺るがしかねない『少子化危機』とも言うべき状況」と認識し、
(1)子育て支援
(2)働き方改革
(3)結婚・妊娠・出産支援
 という「3本の矢」で推進していこうということになりました。「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」の当初の議論は、中でも(3)の「結婚・妊娠・出産支援」に重点を置いていました。

 その中で「人口減少に歯止めをかけるための目標として出生率や出生数の数値を掲げるべきか否か」という議論もありました。男性からは「数を出したほうがいい」という意見が多くありましたが、私を含め、それに対して違和感を感じる女性は多く、最終的には「当事者が希望する人数と、実際の人数の差をなくす」という目標がよいのではないかという結論になりました。

 実際、諸外国の例を見ると、韓国は「OECD平均の出生率(1.6)までの回復」という目標を掲げているものの、フランスは「保育所の新設等により乳幼児の受け入れを増やす」という目標にとどまり、イギリスやアメリカ、ドイツ、スウェーデン、シンガポールは数値目標の設定がありませんでした。