年々少子化が進む日本。人口減少という問題に対して、どのように取り組むべきなのか。内閣府が設けた「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」にも参加した池本美香さんが、日本総合研究所の勉強会で発表した見解を紹介します。池本さんは政府が進める「人口減少の恐怖感をあおるやり方」は世界的に見ると常識外れだと訴えます。そこには「当事者が共感できる」「子どもや親がハッピーになる」視点が欠けているというのです。

 2014年6月、日本総合研究所(東京都品川区)を会場に『少子化対策の課題~「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」の総括と今後の展望~』という勉強会が開催されました。

 「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」とは、2013年8月に内閣府によって設けられ、同年8月29日から翌年の7月9日まで開催された有識者会議のこと。「少子化危機突破のための緊急対策」(2013年6月7日少子化社会対策会議決定)を着実に実施していくことを目的として開かれました。議長は森まさこ内閣府特命担当大臣、座長は国立成育医療研究センター母性医療診療部不妊診療科医長の齊藤英和さんが務め、構成員には安藏伸治さん(明治大学政治経済学部教授、日本人口学会会長)、水町勇一郎さん(東京大学社会科学研究所教授)、後藤憲子さん(ベネッセ教育総合研究所 次世代研究室室長)などが名を連ねています。日本総合研究所の調査部、主任研究員の池本美香さんも、構成員として参加しました。

 これからの日本の少子化対策はどうあるべきか。「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」で話し合われたことを踏まえて、勉強会で池本さんが解説した内容をダイジェストでレポートします。

池本美香(いけもと・みか)
三井銀総研、さくら総研などを経て2001年より日本総合研究所調査部主任研究員。
少子化に関わる保育・教育政策、労働政策、社会保障等の調査研究を担当。著書に『失われる子育ての時間』(2003年)、編著書に『子どもの放課後を考える』(2009年)、『親が参画する保育をつくる』(9月刊行予定)(いずれも勁草書房刊)など。内閣府「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」委員、中央教育審議会生涯学習分科会「今後の放課後等の教育支援の在り方に関するワーキンググループ」委員、神奈川県「子ども・子育て会議」委員などを務める。

「国のために子どもを増やそう」という流れが出てきた2005年

 日本総合研究所の調査部の池本美香です。本日は少子化対策の課題についてお話しさせていただきます。

 私は20年以上、このテーマに関わりながらきていますが、現在、本当に関心が高まってきていることを実感しています。これまでの情報も織り交ぜながら、内閣府の「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」の委員として議論に参加して感じたことや、今後の対策などをお話ししていこうと思います。

 まず、少子化対策の定義を明確にしておきます。

 社会で少子化が意識され始めたのは、1989年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)が調査開始以来最低の1.57になったときでした。

 その後、少子化問題は言葉では理解されてはいたものの「具体的に言及するのはタブー」という風潮が続きます。しかし、1997年の人口問題審議会報告書「少子化に関する基本的考え方について」の中で、初めて「少子化はおおむねマイナスの影響」と言及がありました。さらに少子化対策については「少子化の影響への対応」と「少子化の要因への対応」という2つの視点が必要と指摘しています。つまり、これが「少子化対策」の定義になります。

 ところが、2005年に施行された「次世代育成支援対策推進法」を見ると、少子化の影響への対応を促すための子育て支援ではなく、次世代に視点を定めた支援制度となっており、このときから「国のために子どもを増やそう」という流れが出てきています。その後、2007年の第一次安倍政権で「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議が開かれましたが、ここでも「日本」と付けることによって「国」を主体とした対策としています。