柳沢校長(開成中学校) 中1の生徒に、こういう話をするんです。「10年後、君達には先生はいないよ」と。大学の4年間を過ぎますと、職業としてその自分を教えてくれる先生はいないわけです。

 生まれた直後はお母さんが全ての時間を使って世話をします。だんだん成長してきますと、保育園や幼稚園で、先生という名前の人が出てきます。小学校では学校の先生だけでなく、塾の先生も入ってくるかもしれない。その子どもにとって、教育を与えてくれる人が、親だけではなく、先生も加わってくるわけです。

 しかしながら、その先10年後を考えてみると先生という職業の先生はいなくなるわけです。先生が指示するのではなくて、自分で判断できるようにするトレーニング期間が中学・高校だろうと思っています。

 「広い放牧場で放牧しています。好きな場所で好きな草を好きな仲間と一緒に食べさせます。ただし、そこの放牧場は広いけれども、必ず柵があります。その柵を越えると、谷底へ落ちます。その危ない場所には柵を設けています」とお母さん方に話します。

 開成の教員は、手は出さない。口は出さない。ただ、目で見ています。こうしろ、ああしろとは十中八九言いません。1%くらい言うこともありますが、それは先ほどのように谷底に落ちそうなときには言います。それ以外は言わない。子ども達の行動は全部目で見ています。そして、谷底に落ちそうになったときには、当然対応する。自主的に、自分が何をやりたいのか、自分が何が得意なのか、自分の個性は何なのか、ということを探せるような仕掛けを作っています。

 都内私立中学校の最高峰といわれる「御三家」校長先生によるパネルディスカッションということで、講堂はほぼ満席でした。スタート前は会場の雰囲気も緊張気味でしたが、3人の校長先生はそれぞれお話がわかりやすく、ユーモアたっぷりで、会場では何度も笑い声が上がっていました。

勉強以外の教育にここまで情熱を傾けているとは・・・

 もっと受験寄りのお話かと思っていたのですが、勉強や進学先について触れることはありませんでした。生徒が社会に出てからの人生を案じ、先を見据えた教育に取り組んでいる姿勢は、親としてとても参考になります。保護者の方々は熱心に耳を傾け、受験を控えた男の子達も真剣に聞いていました。

 参加する前は、超進学校が、そこまで勉強以外の教育に情熱を傾けているなんて思っていませんでした。勉強ができる生徒だからこその苦悩も垣間見え、今の子たちに対峙する大変さがよくわかりました。「やっぱり御三家はスゴイなあ」と、改めて感心しています。

 男の子を持つ母親としては、グサリと刺さるようなお話もあり、自分の子育てについて考える、いいきっかけになったように思います。

 パネルディスカッションの後編では、「今の子に不足しているものは何か?」など、大変興味深いお話を聞くことができました。次回「御三家校長が語る、今の男子に欠けていること」をお楽しみに!

(文・写真/石井和美)

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