一方で当時、世界中のおもちゃメーカーと情報交換するなかで、デンマークから「我が国では、子どもの体力低下が問題になっている」という情報ももたらされたのです。
今でこそ、子どもの体力低下は日本でも社会問題になっています。ですが90年代当時は、学力低下ばかりにスポットライトが当たっていて、体力低下については問題視されていませんでした。しかし、デンマークの情報を聞いて日本に目を向けると、日本でも子どもの体力が低下している調査結果が出ているのに気がついたのです。
街なかから子どもが遊べるような広い空き地や路地裏がどんどん消え、地域社会のつながりも薄れていく。そして親も子どもに遊びをうまく伝えられない――。私たちの実体験やさまざまな調査結果を元に、ボーネルンドでは「子どもの学力や体力、コミュニケーション力が低下しているのは遊び不足が大きな要因なのではないか」という問題意識を持つようになりました。遊んでいれば頭も体もフル稼働し、学力や体力なんて低下しないはず。存分に遊んでいれば子どもは大丈夫なはずなんですから。
デンマークでは「勝手に体を動かしたくなる体育」へシフト
――「遊んでいれば子どもは大丈夫」とは力強い言葉ですね。
村上 子どもって、遊びの中から集中力、運動神経、友達とのやりとりなどを自然と身に付けていきますよね。遊びの中でケンカをして譲り合いを学んだり、ちょっと難しい遊びに挑戦することから危険察知能力を身に付けたり、遊びのなかで子どもは成長していきます。
先ほどの「大人の遊び方が下手になってきた」というのも大きく関わっていると思うんです。子どもに遊びを提案したり、遊ぶ機会を与える大人が自発的に遊びに興味を持てなくなっていることは、子どもにも大きく影響していることでしょう。
実は、子どもの体力低下が問題視されたデンマークでは、すぐに国として対策を始めていました。同国では体育の授業を大きく変えたのです。
具体的には、集団で決められた課題をこなすような授業から子どもが遊びながら自発的に体を動かしたくなるものへとシフトしていました。私たちが見学に行ったデンマークの学校の体育館にあったのが、一直線に楽しく走れるトランポリンのような「エアトラック」や、大きな浮き輪のような輪の中に子どもが入ってグルグル回る「サイバーホイール」という大型遊具でした。実は、私たちが今キドキドに入れている遊具は、デンマークの学校で取り入れられているものなのです。
そうしたデンマークの状況を見て、「日本でも、子どもの健やかな成長のために遊ぶ機会を保障できるサービスを提供したい」と強く思うようになったんです。これがキドキド開発の背景にあります。