村上 1980年代当時、見慣れない輸入モノでしかもキャラクターもついていない商品は受け入れられにくかったのです。しかも、一般的なおもちゃよりとびきり高価でした。

 例えば、砂場用のバケツです。私たちが扱っているものは、どんなにぶつけたり踏んでも割れない高品質なプラスティック素材のもの。万が一壊れても切り口が鋭利にならず、子どもの安全性も考えられていましたが、当時は1個800円(編集部注:今は950円)。一般に売られている砂場用バケツが100円程度で手に入るのと比べると高いですよね。

 扱う商品にこだわりはあったものの、こういった理由を説明しないでおもちゃ店に並んでいるだけならば、もちろん誰も買ってくれません。当時は街のおもちゃ屋さんに商品を卸していたので、お客さんにそういった説明まではできなかったんです。

高品質な砂場用バケツも販売する
高品質な砂場用バケツも販売する

――確かに説明を聞かないと、800円のバケツにはすぐに手が伸びません。

村上 それでも、商品を使ってくれていた保育園や幼稚園などからは好評価をいただいていたので、理解してもらえれば売れるんだという確信はありました。

 そこで、創業から5年目に直営店を大阪・心斎橋にオープンしました。「我々が扱う商品は『道具』であるからには、必ず店員による使い方の説明が必要。そしてその説明は、家庭に戻ってから子どもに使ってもらえることを前提にしたものでなければいけない」という思いから、店舗スタッフは店に訪れる子どもの興味、その子の次の成長段階まで視野に入れた商品説明や提案ができるようにトレーニングしました。この考えは現在も同じで、店舗スタッフを全員“インストラクター”と呼んでおり、彼らは子どもの発達段階やそれに応じた遊び方の知識を有しています。

 直営店で実際に店員が訪問客と話をしながら販売ができるようになったことで、ユーザーの認知度や店への信頼度が一気に上がりました。それから約30年、百貨店やショッピンセンターに直営店を出すなどして店舗数を増やし、今も成長しています。

「試遊」と「多品種販売」こそが人気の理由

――専門の知識を持ったスタッフがいるというのは、同業他社との差別化にもなりますね。他に御社ならではの取り組みは何かありますか。

村上 店頭ではなるべく多くの商品のサンプルを置いて大半のものは手にとって試せるようにしており、試遊スペースも十分に用意しているのが特徴です。やはり「道具」だからこそ、使って納得したうえで購入してもらいたいのです。

 ボーネルンドで取り扱う商品の多くは、決まった遊び方を強要するものではありません。1つの道具から多種多様な遊び方を子どもが工夫できるものです。だからこそ、最初は説明よりも手にとって遊んでもらいたいのです。

――店舗では何種類の商品を販売しているのでしょうか。

村上 例えば、東京・原宿のボーネルンド本店では約3000点の商品を扱っています。おもちゃ店は一部のヒット商品を大量に販売するのが一般的なビジネスモデルなので、商品を多品種扱うのは企業としては効率の悪い方法かもしれません。でも実は、多品種そろえることで、店を訪れる発達段階や遊び方が異なるさまざまな子どもたちに対応できるのが、私たちの強みなのです。

 ボーネルンドには、子どもの発達段階と遊びの種類を軸とした商品選定のマトリックス表があります。このマトリックスのすべての部分が埋まるように商品を多品種扱っているので、どんな子どものニーズにも対応しやすいのです。