「シングルマザーが子どもと一緒に生き生きと生きられる社会」を目指して、交流会や電話相談、政策提言を行うNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の理事長を務める赤石千衣子(ちえこ)さんに、ひとり親家庭の実情や共働き家庭との共通点などを伺いました。

シングル親家庭と共働き家庭の共通点は、「時間のなさ」

NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長を務める赤石千衣子さん
NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長を務める赤石千衣子さん

治部 近著『ひとり親家庭』(岩波新書)には、シングルマザーの実情が詳細に描かれています。なるほど、と思ったのは、シングルマザーと共働き家庭で、目指すものに共通点があった点でした。

赤石さん(以下、敬称略) 本当にそうなんです。シングルマザーは少数派に見えるかもしれません。でも、実はシングルマザーが安心して暮らせる社会は、共働きDUAL世帯にとってもいいはずなのです。

 あまり知られていませんが、日本のシングルマザーは働いている人が多く、就労率は81%にもなっています。米国(73%)、英国(56%)、フランス(70%)など、他の先進諸国のシングルマザーと比べても高い比率です。つまり、日本のシングルマザーが直面している課題は、日本の「働く親」が直面している課題と重なっている場合が多いのです。

 特に大きいのは「時間」の問題です。多くの場合、シングルマザーは子どもが保育園や学校に行っている日中に働こうとします。でも、皆さんよくご存じの通り、そういう仕事は限られています。その結果、子どもと過ごす時間を確保しようと思うとパート就労しかできず生活が苦しくなり、塾代などを捻出しようとすると、複数の仕事を掛け持ちして疲弊することになります。

シングルマザーの悩みは収入の低さ、ファーザーの悩みは時間のなさ

―― 本には、シングルマザーとシングルファーザーそれぞれの課題と共通点も書かれています。これも、共働き家庭にとって本当に他人ごとでないと感じました。

赤石 まず、私がこれまで相談を受けたりお会いしたりしてきた、シングルマザーやシングルファザーの典型例をお話しします。

 大多数のシングルマザーの置かれた状況は、こんな感じです。子育てのために家庭に入って主婦になった人が、配偶者との離婚や死別などで再び働きに出ます。再就職の女性にはなかなか条件のいい仕事がなく、パート就労しかできないか、良くて派遣か契約社員です。

 働いても収入が低いので、児童扶養手当を合わせて何とか暮らしていくことになります。児童扶養手当は年収130万円までは満額支給され、第1子で月額4万2370円ですが、第2子で5000円、第3子で3000円しか加算されないため、子どもが多いシングルマザーが貧困に陥りやすくなります。

 シングルファーザーの置かれた状況は、少し異なります。夫がサラリーマンで、妻もパートとして就労し、その収入を当てにして住宅ローンを組んでいた場合には、離婚によってローン負担が重くなるなど、「隠れ貧困」になる可能性が出てきます

 シングルファーザーにとって一番大きいのは、やはり「時間」の壁。親族の支援があれば何とか仕事を続けられますが、大抵は「子どもか仕事か」の板挟みになります。シングルファーザーになった父親の4分の1が転職する背景にはそういった事情があります。シングルマザーと比べるとシングルファーザーの収入は多いのですが、それでも、転職によって正規雇用から非正規雇用に変わり、年収が平均で10%程度下がってしまうのが実態です。