フレックス制の導入が、より良い製品の開発や退職率の改善に寄与した

 英国で何十万人も雇用しているある企業が、フレックス制を導入したことがあります。オフィスや家などいろんなところで仕事をしてもいいという制度です。最初は大失敗に終わりました。でも、その企業は制度はやめませんでした。すると次第に、どうすればフレックス制が機能するかが分かってきたそうです。

 フレックスタイム制というのは、自分で何でも好きなことをやってもいいというものではありません。企業側と従業員が合意をし、互いに信頼しなければいけないのです。社員も徐々にその制度を活用できるようになり、気持ちに余裕が生まれ、結果、消費者に喜ばれる製品を生み出し、退職率の改善にもつながりました。

 日本には教育水準が高い人が多く、どの国と比べてもトップクラスです。企業にとっては、社員にその高度な知性をどう活用してもらうかが重要になってきます。なぜなら、日本のような高価値の経済社会では、多くの人が非常に複雑な仕事に従事しているからです。 

 複雑な課題を解決するためには、知識を身に付ける必要があります。企業側も社員からアイデアを引き出すために、傾聴できるように工夫しなければなりません。社員が一体どんなアイデアを持っているかを、例えばソーシャルメディアを介しながら引き出してもいいのです。実験的な施策からもアイデアを引き出すことができます。

 インドのムンバイを起点にしたTATAグループの企業TCSが、年率20%の経済成長を遂げていることをご存知でしょうか。この成長はITの業界では誰も無視できないものです。社員の平均年齢は27歳という若い組織です。

 この企業は、ソーシャルメディアを社内に取り込み、社員に対して「積極的にコミュニティーを作りましょう」と提案しています。世界中の社員同士でゲーミフィケーションを使いながらアイデアを交換することを推奨しているのです。こうして、各社員を傾聴する企業風土を作ることができ、それを、若者の育成にもつなげています。

 こういう企業のカルチャーは、社内の社会的なつながりも育てます。社会的なつながりは企業にとっても非常に大事なのです。

 新しい書籍『未来企業』の中で、企業内の透明性を上げることの重要性を説きました。部門を越えて、社員同士が「こういうことをやっていきましょう」という情報を共有し、意見を交換する。たとえ部門の違う社員であっても、いつでもコミュニケーションができるようにしておく。相手に対する寛大な気持ちを育成するのです。

 実は、新著では、日本のヤクルトレディーの話も紹介しています。8万人あまりのヤクルトレディーはコミュニティーと密接しています。コミュニティーに目を向け、今、その地域で何が起きているのか。みんな健康なのか、みんなハッピーなのかを察知して、それに応じた商品を配達していく。これがヤクルトにとっても、地域にとっても重要なんです。

真剣なまなざしで聞き入る、参加者の皆さん
真剣なまなざしで聞き入る、参加者の皆さん

 今日、この場に参加されている女性の皆さんは今後のキャリアについても考えているでしょう。将来はリーダーになっていきたいと思っている人もいると思います。男性以上に、女性にどんどんリーダーになっていっていただきたいものです。 

 将来のリーダー像には、2つの特徴があると思います。まず1つは「内省できること」です。つまり自分自身を見つめられること。自分自身の価値観を知り、それを具現化する方法を知っている。そして、それをストーリーとして語ることができる。こういった内省のできるリーダーであってほしい。

 2つ目は、自分の世界観を持っていること。普段の生活の「外」で何が起きているかに目を向ける。気候変動はどうなっているのか、技術はどう進化しているのか、人口分布はどうなっているのか。日本という国の垣根を越えて、近隣のコミュニティーを超えて物事を知ることが大事。新しいリーダーになるためには、ものすごいスピードで世界は変わっている中、地球市民であってほしいと思っています。

(文/日経DUAL編集部、撮影/鈴木愛子)