周囲に塾に通い出す子どもたちが増えてくると、気になるのが中学受験。本当にしたほうがいいのか、それとも地元の公立中学校に進学し、高校受験するほうがわが子には向いているのか…。長年にわたり小学生や教育者を取材してきた、日経キッズプラス『中学受験する? 公立に行く? わが子に合う進路の選び方』を担当した尾島和雄 日経BP生活情報グループ別冊編集長に聞きました。今回は我が子を中学受験させた経験を振り返って、受験のプロセスを具体的に聞いた。

羽生祥子日経DUAL編集長(以下、羽生)  私は小学校2年生と年長児の親なんですが、今日は子育てで一歩、二歩先に行く尾島編集長に、「中学受験をするか、しないかどうしよう」と悩んでいる共働きのパパ・ママたちに向けたお話を伺いたいと思います。

尾島和雄日経BP生活情報グループ別冊編集長(以下、尾島) そんな立派じゃないからね、言っとくけど。

羽生 はい(笑)。最近の中学受験ですが、受験する人は増えているわけではないんですね。

尾島 全然そんなことない。むしろ減っています。リーマン・ショック以降は確実に減っている。「熱」は熱いままかもしれないけど。

羽生 尾島家はずっと共働きですよね。お子さんは何歳ですか?

尾島 17歳と13歳です。

羽生 奥さんが中学受験させたかったんですか?

尾島 させたいというかね、うちの妻は東京出身なの。一時期地方に行ったこともあるけど、基本は東京の人間なので、考え方がどっぷり東京なのね。俺は田舎のほうの埼玉出身だから、完全に地方の考え方。

 恥ずかしい話だけれど、麻布中学も知らなかった。ああいうエリート学校というのは全部高校からなんだと思っていた。中学受験なんてものの存在も全く知らなかった人間なので、2005年に『日経キッズプラス』を創刊したころにやっと知ったぐらい。そういう地方出身夫と、東京的な事情・価値観で育った妻というある意味典型的な夫婦で。彼女が「絶対私立中学に受験させたい」という理由ははっきりしていて、内申書に対する不信感でした。

内申書にネガティブな思いを抱えたままの人が多い東京出身の親

羽生 え? 不信感ですか?

尾島 うん。俺が高校の頃の埼玉県の高校受験なんていうのはさ、内申書ってほとんど関係なかったわけ。ほぼペーパーテストだけで決まる。だけど東京ってそうじゃないんだよね。内申書(調査書)の比重が今も結構高い。神奈川などもそうだけど。自分が学生時代だったころの経験から、「内申書ってどうなんだろう」と不信に思っている親が多い。こんなものがどこに客観性があるんだとか、先生に嫌われたから悪くつけられた、というようなネガティブな思いを抱えたままの親が東京出身の人にはいっぱいいるんだと思う。

羽生 なるほど、中学3年生のときの先生との関係が響きますね。

尾島 内申書でいい点数が取れないから、いい学校に行けないんじゃないかと。それだったら本番のテストだけで決まる私立のほうがいい。「内申書がある公立高校ではなく、中学から私立に行ったほうがいい」というのが、家内の考え方でした。

 自分の知り合いにも、子どもが高校受験を最近した人がいっぱいいるけど、聞くと、やっぱりあの内申書は納得できないって人は多いんです。

羽生 その方の進学先は、公立高校ですか?

尾島 そう、公立高校。公立中学に進んだ人は大概公立高校、東京だと都立高校を目指すのだけど、内申書で痛い目にあっている子が多い。「どうしてテストの点がこれだけいいのに内申が良くないんだ?」そういう不信感を持っている人が実に多い。

羽生 やはり優等生的な子や、先生の好まれるキャラの子が内申書では高く評価されるんですか?

尾島 もちろん教育委員会はそんなことは絶対言わない。調査書の評価基準も事細かに決められているんだよね。だけど、会社員であれば誰もが思うところだけれど、社員の評価だってさ、「何だよ、これっ」て思うことがいっぱいあるわけじゃない?(笑) 学校って1クラスだけでも40人くらいの子どもを見なければいけない。数学の先生は数学だけで百何十人と見るわけでしょう。それで、しっかり内申書の評価ができるんですか? ということなんです。

尾島和雄 日経BP生活情報グループ別冊編集長
尾島和雄 日経BP生活情報グループ別冊編集長