学童保育の基本について学ぶ短期集中連載。40年にわたり学童保育に関わり、厚労省の「放課後児童クラブの基準に関する専門委員会」にも委員として参加した児童健全育成推進財団企画調査室の野中賢治室長に色々教えていただきます。前回の「学童って何?」に続いて、今回教えていただくのは「学童保育の役割」です。学校の延長ではない、本来の役割とは何なのでしょうか?

お話を聞いた人
児童健全育成推進財団 野中賢治さん

 児童健全育成推進財団はもともと児童館をサポートする団体。子どもの健全育成を進めていくために、児童館や放課後児童クラブ(学童保育)を推進するのが役割。主に、児童館や放課後児童クラブの指導員の研修を行っている。
 野中さんは昭和50年代から10年前に定年で退職するまで文京区の職員として、児童館や学童保育にかかわってきた。現場を知るベテラン職員の経験を活かし、放課後児童クラブに関わる法整備のための研究会や委員会にも参画している。

小学生になって生活圏が広がるのに合わせた支援をするのが本来の役割

──今、政府が学童保育について色々検討しているとのことですが、どのようなことを議論しているのでしょうか?

 学童保育は今まで、教育や福祉など、どこのくくりに入れ、どこが管轄すべきなのかということがずっと問題になってきました。これは、小学生になると、幼児のときとは違った、学校・放課後という問題が生まれるからです。それと、学童保育は子どもにどのような援助・支援をするところなのか、どのような子育て支援をする施設なのかということも議論になりました。これは、小学生になると子どもの生活圏が広がるからですね。

――確かに保育園のときよりも生活圏が広がりますね。

 保育園のときは施設保育で済みますよね。日常は施設の中にいて、保育士と一緒に地域に出かけていくことで行動半径を広げていきます。

 でも小学校に入ると、少なくとも小学校の校区は自由な行動範囲というのが今の日本社会の通念ですよね。小学校から帰ってきたら、校区内で遊ぶことには親の目を離れていても誰も問題にしない。遊びでもお稽古事でも塾でも、自転車に乗っていってもいい。自由です。

 親が日中不在で保育が必要な子どもでも、同じように発達に即した生活をカバーする必要があります。単なる“その場だけでの預かり”的な感じで運営されている施設では、子どもの生活が狭められてしまう面があります。

学校の中で学童保育を行うには生活空間の確保が必要

――「自分が利用していた学童保育が学校の隣にある建物でやっていたので、最初は学校が運営しているのかと勘違いしていた」という声を聞いたことがあります。学校内や隣接地にある学童保育は少なくないのでしょうか?

 結局は場所がないので、今は国も学校の中でやることを薦めてはいます。しかし私の考えでは、それが子どもにとっていいことかどうかは別の問題だと思っています。

 学校は基本的に勉強する所、努力する・頑張る所です。一方で、頑張る時間から解放される時間や空間も子どもにとって必要ではないでしょうか。子どもが自然に気分転換できるように、学校から少しだけ離れた場所に学童保育があって、戸外遊びもできる環境があるといい。私の経験からいうと、それが、一番子どもがのびのびできる環境だと思います。

――親からすると学校に接しているほうが安心できるという思いもあります。

 そうですね。でも、今の学童保育の多くは、親から見ると安全でも、子どもがのびのび生活できるかどうかという観点から見ると問題が残っています。学校の中で学童保育をやるなら、子ども達が学校生活を意識しないで過ごせる十分な生活空間を確保する必要があると思います。

――生活空間とは?

 例えば今の日本の学校では、勉強をやる教室で給食も食べます。構造そのものが課業中心に作られていますから。その教室の1室だけを学童保育の場にしているところが多い。

 また、校庭や体育館も高学年の授業が終わるまでは使えないところも多くあります。

 子どもの生活には、おやつを食べたり宿題をしたりという静かに過ごす空間と、おしゃべりしたりごろごろしたりできるだんらんの空間と、体を動かして遊び回れる動的な空間が必要なのですが、学校内の学童保育ではそれが制約されているところが結構多いということです。