どんな縁が自分を引き上げてくれるかなんて、分からないもの

―― その後、30代で証券取引委員会の委員になっています。このときも何か特別なことをされましたか?

ジャッジ これは本当に偶然だったのですが、面白い話なのでご紹介しますね。

 あるとき、私と夫は中国に視察に行きました。1970年代の中国でしたから、アメリカ人が自由に色々見て回るのは難しく、団体での旅行でした。グループ内を見回したところ、一人で参加している女性がいました。彼女はいつも周囲に何やかにやと文句を言って、とてもつまらなそうにしていたので、同情した私は親しく話をするようになったんです。

 後で分かったのですが、実は彼女、ウォール街で長年経験を積んだ名ブローカー(株式仲買人)でした。私はちょうど、弁護士事務所のパートナーとして2年働き、そろそろ別の仕事にも挑戦したいと思っていたころだったので、軽い気持ちで彼女にCV(職務経歴書)を送りました。

 そのことをすっかり忘れているうちに、9~10カ月が経ちました。そして、カリフォルニアで商談をしている真っ最中に、ニューヨークの勤め先から電話が掛かってきました。

 「君を米国証券取引委員会の委員に推薦したいという人から連絡が来たよ」と言われて、「冗談言わないで! 今、忙しいから失礼」とすぐに電話を切ったんです。するとまたすぐに同じ趣旨の電話があって、本当だと分かりました。数日後にはワシントンDCに飛んで面接を受けていました。

 これをきっかけに私の人生が変わりました。

 当時のカーター米大統領は、証券取引委員会に女性を入れたいと考えていました。候補者を探す際の条件は3つ。「女性で、弁護士事務所でパートナーを務めた経験があり、証券法に明るいこと」。これを満たす女性は合計しても一桁くらいしかいなかったそうです。候補者を探すうちに、ウォール街で働く経験豊富な女性に「誰かいい人はいないか」と尋ね回ったのだそうです。

 それで私は不思議に思ったんです。自分は毎日夜中まで働いて、顧客以外には上司のフランクとしか顔を合わせていないくらいだったのに、どこで私のことを知ったんだろう、と。

 そして、驚きました。1年も前に女性ブローカーに送った職務経歴書が役に立ったんです。彼女が私の存在を証券取引委員会に伝えてくれたのだそうです。「君を見つけるのは一番簡単だったよ」と言われました(笑)。

 どんな縁でも相手を信じて思いを託せば、人生の転機となるような素晴らしい出来事が起きる可能性があることを学びました。