全校児童が、講堂正面のひな壇とステージに全員収まっている。練習の時、少し離れて見ていると、全員を丸ごと抱きかかえられそうな感覚になる。「小さな学校★大きな家族 チーム敷津」の合い言葉通り、家族的な小規模校の良さは欠点にもなる。オンとオフの区別がつきにくい。今年度の重点目標のひとつには、マナー指導も入っている。練習を始めた時はなかなか引き締まらなかった。しかし、真剣な大人達の様子に徐々に気持ちが入ってくる。

卒業生達の「思い出」をつないでいく

 ある日、学校に2人の高齢女性がふいに尋ねてきた。

 「昭和19年度の卒業生です」

 明治から存在する学校の歴史を追っている最中だったので、貴重な話をたくさん聞かせていただいた。中でも、大阪大空襲の話は鮮烈だ。4歳の弟を抱いて地下鉄へ逃げ、表に出ると焼け野原だった。小学校の木造校舎は焼け、講堂には遺体が運ばれていた。現・今宮高校へ逃げた人達は、焼夷弾の光で目が真っ赤に充血していた……戦争の話の合間に、お一人がぽろりとつぶやいた。「私たちにとって、学校と言えば小学校の思い出だけです。その後は、女学校やら中学校やらバラバラになってしまったし、記憶にもあまり無いんです」

 たまたま、100周年の記念誌があったので、当時の写真を見ながらの思い出話は尽きなかった。式典に来ていただけるとのことで、早速、次の児童朝会で子ども達に戦争の話を交えて話す。「この敷津小学校だけが、楽しい学校の思い出だったという人が式典にはたくさん来ます」。イベントを組み立てる時には、テーマが不可欠だ。私は式典を「小学校ってステキだな」を出席者全員で分け合える、そんな場にしたいと思った。

 教務主任が、敷津小と地域の歴史をふり返るスライドを作ってくれた。出席者にはずっと地元に住んでいる方達も多い。学校の隣にある木津市場の古い写真、大阪球場があった頃の写真、戦争で焼けた木造校舎、戦後の旧校舎、昭和時代の運動会……。年配の方々は懐かしく、子ども達には目新しく映るスライド上映で、式典の中にも「そうやったなぁ」という柔らかなさざめきが聞こえる。

 続けて、私が作った「敷津小の1年」をふり返るスライドショーを流した。新1年生の入学式の写真から、学校行事や学校の四季を感じさせる写真を並べ、昨年度の卒業式まで。教頭先生がポスティングまでして、ここ数年の卒業生に出席を呼びかけた。伝統的に続いている「国際ふれあい交流」や「地域ふれあい清掃」、自然体験学習の写真には、卒業生席が反応しているのを感じた。

全校合唱では「世界がひとつになるまで」を歌った。ひとかたまりに揃った声の美しさに、涙をふく大人達の姿があちこちで見られた。緊張感を乗り越えた子ども達に、拍手を送りたい
全校合唱では「世界がひとつになるまで」を歌った。ひとかたまりに揃った声の美しさに、涙をふく大人達の姿があちこちで見られた。緊張感を乗り越えた子ども達に、拍手を送りたい

 そして「140年目のチーム敷津」の児童席からは、自分や友だちが映っている、あの行事があった、この行事があったとリアルに楽しんでいる。小学校っていいね、楽しいね。場内がそれぞれの心の中の「小学校」や「敷津の思い出」で満たされていくのを感じた。

 

 その温かな空気を受けて、子ども達を押し出す。
 さぁ、君たちをみんなが見ているよ。練習通り、がんばっておいで。