中学受験勉強で得る一生の財産

 ゆえに、中学受験塾に通う子どもたちは、塾で単に知識を詰め込まれているわけではない。必要最低限の知識については家庭学習で覚えてくるように言われるが、塾の教室で教えていることは、その知識をいかに活用するかという部分なのだ。算数の文章題の中に「比」の概念が隠されていることを発見したり、複雑な図形の中に補助線を引き「公式」が使える形を見出したり、問題文に隠されたヒントから解決すべき課題を見出すところこそがポイントとなる。つまり、自分が持っている知識を最大限に活用して、目の前の得体の知れない課題を解決する「知恵と度胸」を鍛えているのである。

 私は最近、7人の識者へのインタビューをもとに、『生きる力ってなんですか?』(日経BP)という書籍をまとめた。「生きる力」を構成する学力の正体を突き詰めていくうちに、識者の話がいずれも、明治時代に書かれたある論考につながることに気が付いた。福沢諭吉の「文明教育論」である。そこには次のようなことが書いてある。

 「世界万物についての知識を完全に教えることなどできないが、未知なる状況に接しても狼狽することなく、道理を見極めて対処する能力を発育することならできる。学校はそれこそをすべきところであり、ものを教える場所ではない」

 先行きが不透明な時代において、未来予測は大変に困難だ。その場その場で自分が生きていくうえで必要なものを自分で見極めて、どうやったらそれを手にすることができるかを考え、そのために努力を続けることができる力こそ、「生きる力」の正体であるといえるのではないだろうか。

 そして、中学受験勉強を通して身に付く学力も、実はそのような能力に近い。これは、どんな世の中になっても通用する不偏の力。一生の財産になるはずだ。中学受験対策をする各塾が、「受験突破のみならず、将来役に立つ本当の学力を身に付けさせる」というようなことを表明しているのは、決してウソではないのである。毎週のテストの点数に一喜一憂し、子どもを追い詰めるというのはよろしくないが、正しくやれば、中学受験で「生きる力」を鍛えることもできるのだ。

(構成 日経BPヒット総合研究所 日経キッズプラス)

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