思い返してみれば、わたし自身、子どものころ持ち帰り専門のおでん屋さんで竹輪やはんぺん、こんにゃくなどを串に刺してもらって食べ歩きをした記憶がある。確かにあれは抜群に美味かったし、何より素晴らしく楽しかったのだが、少なくとも幼稚園には通っている年齢だったはずである。

 ところが、1歳になりたての虎蔵(仮)は、おでんに対して猛烈な執着をみせるようになった。はんぺん、つみれ、たまご、だいこん。なんでも食べる。わたしが子どものころだったら絶対に食べなかった椎茸までも、おでんのつゆにつかっていればバクバク食べる。締めは、オトナ顔負けに“おでんのつゆかけごはん(ただし、ちょっと薄め)”である。

 ひょっとしたら栄養学的にはホメられたことではないのかもしれない。だが、この意外なハマリっぷりをヨメは見逃さなかった。

 朝、おでんとおでんつゆかけごはん。昼、何か作る。夜、おでんとおつゆかけごはん。

 虎蔵(仮)がおでん好きになったのをいいことに、ついでにわたしもおでん好きだったのをいいことに、さらには自分も連続おでんが苦にならないのをいいことに、1日3食のうち2食をおでんにすることを思いついたのである。

 それも、3日ぐらい連続で。

 子どもの食事を作るのは結構な手間である。自分たちの食事を作るのも、また結構な手間である。ところが、おでんさえあれば、その両方からずいぶんと解放される──。

 というわけで、2週間か3週間に一度、我が家では大量のおでん種を買い込み、土曜日の夜から火曜日の昼ぐらいまで、高確率でおでんを食べるようになった。

 寸胴の底にだいこんを敷きつめ、次にじゃがいも、たまねぎ、たまごをセット。次いでいい出汁が出る鮫の軟骨がたっぷり入ったすじ、つみれ、牛すじなどを放り込み、市販のおでんつゆにオイスターソースをちょい足し。これを2時間ほどコトコトやっておけば、あとは食べるたびに練り物や巾着を入れて温めるだけである。

 おでんウィークエンドが何週も続いた。朝御飯も昼御飯も、ついでおやつもおでんである。味が染み染みで、熱々はもちろんのこと、冷えても美味い。虎蔵(仮)も、すっかりお気に入りの様子だった・・・・のだが、ここにきて急速に頭をもたげてきた不安がある。

 これから、どうしよう。

 2日、3日とおでんが連続しても少しも飽きないのは、練り物の種類によって、味や食感がまるで違うのと、あとは、2日目のカレーが美味しいのと同じ理屈だろう。

 ただ、カレーには香辛料がたっぷりと入っている。おでんには、ない。

 ということは──。

 カネコ家の親子3人は、おでんと寒い日でなくても美味しいものだということを痛感してしまった。ヨメは、おでんで楽をすることを覚えてしまった。

 これからの季節をどうしよう。

 おでんの美味さに変わりはない。変わるのは、台所の環境である。

 ありていにいえば、モノは腐りやすくなる。スパイスがたっぷり入っているカレーだって、3日も放置しておけばカビが生えてくる。まして、防腐剤効果のある食材が一切入っていないおでんとなると──。

 出来立てのおでんだって十分に美味い。だが、わたしや虎蔵(仮)がハマッたのは、お出汁を吸いまくって型崩れしただいこんやじゃがいも、たまごなのである。あれは、お店では食べられないし、我が家でも、2日目の後半にならないと食べられない。

 夏、どうしよう。

 世の中には知らない方がよかったこともある。そのことを改めて痛感させられる週末の午後である。

妻のアトコメ

 いや、夏だっておでん食べますよ。実際、暑くなってきた今でも、平気でおでん食べてますしね。大量は無理だけど、冷蔵庫に入る程度の量に調整すればすむことだし。だって、虎があんなに好きなんだから、作ってあげないとかわいそうでしょう。手抜きだなんてとんでもない。虎を思ってのこと。

 パパと息子のお風呂タイムでそんなことが起きていたなんて、知らなきゃよかった。どうも、「キャッキャ!」という虎の声や、「うひゃ~」というパパの叫びや、色々賑やかだと思った。

 頼む。私を先に入れて!