「何となく」時給が上がる仕組みの中で

 毎日、終日が時間との戦い。体力自慢の園丘さんだが、家に帰れば自宅の家事もあり、体力的にはかなりきつい。それも、子どもが小学校高学年と中学生まで成長したから、できること。「おやつを食べて我慢してもらい、夜の8時過ぎに走って帰宅して、慌てて夕食を食べさせる」ことで切り抜ける。

 やりがいはある。でも、ジレンマもある。

 「もっと仕事ができるようになりたいんです。例えば弁当も、ラップや値付けだけでなく、自分で全種類作れるようになりたいです。常に、できるだけ『出来たて』をお求めいただけるよう、仕事の段取りも工夫したいと思っています。でも、なかなかそうはなれなくて」

 総菜への異動を打診してくれた課長にこうした悩みを相談すると、「まだ半年なのだから、焦らず、ゆっくり」と言われてしまう。

 言われれば、納得する。でも、成長したい気持ちは変わらない。

 「もちろん、頑張った分、時給も上がってほしいです。ちなみに総菜とレジは同じ時給で、私は1000円もらっています。昇給もしてきましたが、評価に応じたものではなく、理由や時期などの根拠は分かりません。不本意な気持ちもありますが、パートってこんなものなんだろうな、とも思っています」

正社員になるより、自分と子どもの「ダンス教室」が大事

 評価に応じた昇給基準はないが、繁忙時間帯の時給アップはある。

 「土・日曜・祝日は、いずれも時給が100円増しです。ちょっと悔しいのは、レジだと平日の17時以降も、100円アップになることです。総菜に異動した私は、1日8時間以上働けば、時間外割増賃金はもらえますが、単に17時以降に勤務しても、その分の上乗せはありません」

 そんなこともあり、「総菜に異動して後悔してないの?」と、かつてのレジ・パート仲間からよく言われる。年収制限をしていない園丘さんにとって、時給は高ければ高いほうがよい。でも、園丘さんの答えは決まっている。「異動してよかった」だ。

 レジは「極めた」という実感がある。一方、総菜は、すべてが「まだまだこれから」。未知の部分がたくさんあり、そこが仕事の面白さになっている。

(写真はイメージです)
(写真はイメージです)

 評価に応じた賃金制度のあるスーパーに、転職もできると思うが、「この年でいまさら、新たな職場に飛び込む気持ちもない」と言う。元上司が、パートからの正社員登用で課長にまでなっている実例もあるが、正社員になりたい気持ちも、今はない。

 「自分も大好きで通っているヒップ・ホップのダンス教室に、娘と息子も通わせているんです。親ばかですが、2人とも本当にカッコいいんですよ。正社員になったら、一緒に教室に通ったり、発表会の準備をしたり、親としてそれを手伝う余裕がなくなってしまいます。それは、嫌だなって」

 今だからこそできる楽しみを、満喫したいと思っている。

(取材・文/平田未緒)