デンマーク、スウェーデン、ドイツなどから広まった“森のようちえん”とは、お母さん達が始めた自然の中で子どもたちをのびのび遊ばせる保育活動。日本でもその考えに賛同し各地に広まってきたが、自然に恵まれた地方が多かった。しかし、都会の限られた自然環境の中でも、子どもたちが四季を通して泥んこになって遊び回る保育を可能にした園についに出合えた。

 「つばきの蜜飲んでみる?」女の子が花を差し出してきた。「どうやって飲むのか教えてくれる?」と言うと、「ここから飲むの」と慣れた手つきで花びらを整え、花の根元を吸う真似をして教えてくれた。植物の青々しい香りの中にほんのり甘い蜜の味。口に大きく広がるほどの甘さではない分、味覚に集中するからこそ感じる甘さ。幼い頃に味わったこの甘さを知っている子どもが、今ではどのくらいいるんだろうとふと思った。

雨や雪の日こそ、子どもは喜んで森へ向かう

「飲んでみる?」女の子がつばきの花の蜜の味わい方を教えてくれた
「飲んでみる?」女の子がつばきの花の蜜の味わい方を教えてくれた

 1950年代、「森の中で子どもたちを自由にのびのび遊ばせて育てたい」という思いからドイツやスウェーデンなど西欧諸国から広がった“森のようちえん”。園舎を持たず、晴れの日も雨の日も雪の日も森の中で自然を楽しもうと、母親たちから始まった保育活動だ。日本でも草の根から広がり、園舎の有無や規模は様々だが、自然の恵みを感じながらその中でのびのびと遊ぶというコンセプトを大事に、自主保育から幼稚園、保育園まで様々なカタチで取り入れられている。

 その森のようちえんが、自然環境に限りのある首都圏の保育園でどのように行われているのだろうと見てみたくなって訪れたのは、横浜にある横浜市認定保育室の「もあな保育園」と認可外保育園の「めーぷるキッズ」。どちらもNPO法人もあなキッズ自然楽校が運営し、もあな保育園は0~2歳児、めーぷるキッズは3~5歳児を受け入れる姉妹園だ。

 園舎は両方とも目と鼻の先のビルの1階で園庭はないが、中は天然木材をふんだんに使った広々としたスペースがとられていた。

もあな保育園の室内は、木の香りでいっぱい。最低限の玩具しか置かないのは、外で過ごす時間が多いのと子どもたちが自分で工夫して楽しむ余地を残すため
もあな保育園の室内は、木の香りでいっぱい。最低限の玩具しか置かないのは、外で過ごす時間が多いのと子どもたちが自分で工夫して楽しむ余地を残すため

 「1日の大半は外にいるので、園庭の有無はあまり関係ないんです。雨や雪の日ももちろん出かけますよ。そういういつもと違った日こそ子どもたちは自然の中に行くのを楽しみにしているんですよ」

 と、案内してくれたのは園の創設者で、NPO法人もあなキッズ自然楽校 代表理事の関山隆一さん。海外の国立公園で長年ガイド経験もある関山さんは日本帰国後、子どもたちに自然体験をさせる活動を始めた。自然の中で過ごすことで、子どもたちの表情が生き生きとし、日々の生活にも良い影響を与えていくことを見て、もっと小さいうちから自然の中で育つ体験をできる環境を作りたいと、保育園をスタートした。

 「幼児教育の専門家でも、保育士でもない人間が保育園を始めるなんて、異例かもしれません。でも、自然楽校の活動で子どもたちとはずっと関わってきましたし、自然に関する知識や経験はありました。“保育園はこうあるべきだ”という固定概念がなかったからこそ、子どもたちがすくすく育つことだけを考えて園を作ってこれたんだと思います」

 開園してからまだ、もあな保育園は3年・めーぷるキッズ5年だが、全国から視察が相次いだり、毎年定員以上の応募が来ることからも、この保育園への賛同者が多いことが分かる。

大地が暖かいことを身をもって知る時間

 子どもたちが登園し、みんなが揃った9時半過ぎには、子どもたちはお揃いのオーガニックコットンの園帽を被り、歩いて5分ほどの大きな公園に出発する。もあな保育園、めーぷるキッズ、それぞれからわくわくとした表情の子どもたちが次々並んで出てくる。周辺には川沿いの緑道など自然あふれた大きな公園がいくつかある。月に1度は電車に乗って海岸へも行く。


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