私は、録画して見損ねている映画やドラマのリストを横目に、時計を確認してテレビを消す。今から見出すと、明日5時半に起きられない。
たまに、寝かしつけに成功した夫が、3時4時までテレビ三昧をしてリビングに転がって寝ているのを、見つけることがある。ああ、蹴飛ばしたい!
「ゆる夫(おっと)」の最強スルースキル
かつて「昼間、ワイドショーを見ながらお菓子を食べ、ごろごろするオカアチャン」がギャグ漫画に登場していた。そこまで極端では無いにしても、パートを休んでテレビを見ながらまったり洗濯物を畳んでいる夫を思うと、ムカムカしてくる。
メディアで見かける主夫は「能動的」だ。料理のレパートリーを増やし、子どもの健康を考え、計画的に家事を進める。我が夫は「ゆる夫(おっと)」と名付けているほど、マイペースで事なかれ主義。基本的に、言われたことしかしない。必要なルーティーン以外は、気づきもしない。
疲れて帰った時の、私の沸点は低い。学校でケンカをする子ども達に、「腹が立つ時は6秒数えて心を落ち着けよう」なんて言っている「校長先生のお話」も自分には効果ナシ。あれこれ気に入らないところを見つけてギャーギャー言う私に、ゆる夫は慣れっこだ。
「帰ってすぐ吠えるなー」
ヨメの怒りの嵐をしゃがんでやり過ごす技を身につけているから、根本的に治らない。つ、疲れた。10年以上、同じことで怒っている。
子どもも私も準備ができて、いざ出発というタイミングに顔を泡だらけにしてヒゲを剃り出す。「ええっ!今!?」と驚くのも、「もっと時間あったやん!なんで早めに剃っておかへんの?」と私がキレルのも、お約束になっている。まるで、こっちの反応を楽しんでいるのかと思うほどに。
その気長さは、おそらく私より乳幼児の育児向きだ。今までは、そうだった。親の思うスケジュールを子どもにぶち壊されると、短い夜や休日を効率的に使いたいと思う私は心折れそうになる。しかし、夫はのんびりと構えている。女性だから育児向きなんてことはない。性別ではなく、個人の適性の問題だろう。
下の子は「ゆる育児」でいいとして、問題は小学生だ。新1年生は、家庭での時間の使い方が大事になってくる。帰ったらすぐに明日の用意と宿題、食事、お風呂、寝る準備。遅くても、21時半には寝かせたい。「早寝・早起き・朝ごはん」に非協力的な家庭に頭を抱え、あの手この手で訴え続けている立場としては、「敵は身内にあり」か……とため息をつきたくもなるのだ。
自分が早く帰ること、夫に時間管理を覚えてもらうこと、娘が時計を見て動けるようになること。
……これが山口家の新たなミッションだ。
今回は、働く母親として、あえて本音を書かせてもらった。当のゆる夫はネタにされていることを、「また俺のこと書いてるやろ」と、喜んでいる気配まであるので、太刀打ちできない。彼の支えと大らかさがあってこそ、校長の職務を果たせている点は重々承知している。学校で落ち着いて保護者の悩みに答える「仕事スイッチ」が、入りっぱなしならいいのだが、散らばるプリント類と洗濯物に出迎えられると、そう単純にはいかない。
「新1年生を抱えた母親校長」も、このレベルで悩んでいるので、全国のお父さん・お母さんは安心してほしい。小学生の親1年生、一緒にがんばりましょう!