趣味にするなら、ピアノは「楽しいのが一番」

──ピアノが上達するにはどうすればいいのでしょうか?

 楽しいのが一番だと思います。「基礎をしっかりやりましょう」という姿勢は大事ですが、趣味であるなら楽しくやらせてくれる先生につくことです。ピアノは楽しいんだよ、ということをアピールしていかないと「練習がつらい」だけで終わっってしまう可能性が大きいですね。

──でも、子どものことを思って「今はつらくても頑張りなさい」と言う親もいますよね。

 親の立場からすると、「嫌だからすぐにやめさせる」よりは、ある程度続けさせたいという希望が当然ありますよね。そういうときに大切なのは「細く長く」だと思います。細くてもいいから、長く触れていることが大事だと思います。

 実は娘も最近「またやりたくなってきた」と言っています。私がイベントやサイン会で会う人達の中にも、「昔、ピアノをやっていました」という人がすごく多くて、そのほとんどの方が「やめて後悔した」「またやりたい」とおっしゃいます。

 なので、親の立場からすると、「やらせる」と考えるよりは「やめさせないでいる」と考えたほうがいい。レッスンの頻度や時間を減らしたとしても、続けたほうがいいと思います。

 昔のレッスンは「やらなきゃだめ」という強制的な雰囲気がありましたが、毎週レッスンにいけないなら、月に1回にする、という形で続けていくのがいいのではないでしょうか。例えば年に1回の発表会があるのなら、どんな簡単な曲でもいいから発表会のために練習して取りあえず出てみる。そんなやり方で続けてみてはいかがでしょう。

──目標は設定したほうがいいのでしょうか?

 まったくの素人の方で、楽譜も読めないし今まで一切ピアノを習ったことはないけれど、たとえばショパンのワルツの中の一曲だけは弾けるという方がいらっしゃいます。それだけ、その曲がお好きなんです。そういう感じで、この曲をどうしても弾きたいから、その曲だけでもいいから練習する、という気持ちが大事ですね。

── 1曲弾けるようになったら、ピアノのテクニックも上達して、他の曲も弾きやすくなる、ということは?

 それはまた別かもしれません(笑)。ただ、気持ちの問題はかなり大きいと思います。

 聴くときもそうだと思うんですが、ちょっと知っている曲があると、急に聞きやすくなるでしょう。それと同じで、練習も知っている曲のほうが楽しくなると思います。

ピアノは弾けなかったけれど、「子どもにだけやらせる」ことはなかった母

──三舩さんが自分でプロになろうと決めたのはいつごろなんでしょうか?

 特に考えずに来てしまった気がしますが、小学校4年生の時の作文には「ピアニストになる」と書いていました。ただなんとなく「優子ちゃんはピアノでしょう」と外から固められた感じもありましたね。

──ご両親も音楽関係のお仕事をなさっていたのですか?

 いえ、うちの両親は音楽音楽家ではありません。母親が音楽好きで、習わせたいと思っていたんです。胎教から聴いていたみたいですね。

──もうそのころからピアニストにしようと考えていたんですね。

 ただイメージしていたのは、主婦をしながら家でピアノを教えてお小遣い稼ぎができる、という未来だったみたいですね。それは失敗しちゃったわけです(笑)。

──でも、ピアニストとしては大成功じゃないですか。

 どうでしょう(笑)。ただ母も周りのお母様方に「なぜ強制的にやらせるの」と言われていたらしいです。「もしかしたら、他のものが好きかもしれないじゃないの」と。

 でも、母には強い思いがあったのですね。私がピアノの勉強をしているときは、「私もやるから」と洋裁をしたり自分も勉強したりずっとしていました。子どもだけにやらせているわけではなかったんです。

 その姿勢をずっと見ていたので、私も子どもに勉強やお稽古をさせるときはそれを心がけてきました。「私も勉強するから、あなたもピアノの練習をしようね」って。子どもって、結局親がそういう姿勢を見せないと絶対にやらないと思いますね。

(文/日経DUAL編集部 大谷真幸 写真/中川真理子)