絵描きになりたかった彼女は、スケッチブックを抱えて大阪に出てきた。私が奪った、彼女のチャンスと可能性を思わずにはいられない。


私の赤ちゃん時代の写真は、極端に少ない。大人になってから、継母が得意なイラストでアルバムを埋めてくれていたことに気がついた。今はただ、感謝している

 自分が初めての子どもを産んだ時、2人目を産んで育児に追われている時。また、彼女の抱えていた「しんどさ」を思う。特に、一軒家を手放し、知らない土地に行った後のことを。専業主婦としてママ友とランチやお菓子作りを楽しむ生活が、いきなり「明日の食費」を案じる生活に変わった。

 チャップリンは、「人生に必要なものは、想像力と勇気と少しのお金」と言った。どれほど思いやりと勇気があっても、「少しのお金(some money)」がなければ、人は人に優しくする余裕がなくなる。今のように、ネットで友人たちとつながることもできない。地縁のない土地に流れ着き、夫は家計を立て直すための仕事に必死で、自分も働かねばならず、子どもは思うように動いてくれない。

 もうひとつ、後から聞いて納得したことがある。彼女はこの時期に婦人科系の手術をしており、早く更年期が訪れたそうだ。やがて、自分に更年期が訪れれば、より彼女の当時のしんどさが理解できるかもしれない。年を取るにつれ、あの頃は理不尽にしか思えなかった継母の態度や言葉が分かってくる。

わかるからこそ、一緒に育てていきたい

 片づけない5歳の娘に、食べない1歳半の息子に、いら立つ。校長の仕事は、土日がつぶれがちだ。睡眠時間が足りないところに、息子がぜんそく気味で2時間置きに夜泣きする。疲労は怒りのリミッターを低くする。お茶を仕事バッグにこぼした娘を、思わず怒鳴りつけてしまった。