著者は、テレビ局でTVディレクターとして勤務しつつ、一般会社員の夫と娘の3人家族で共働き生活をしていた。そこに突然降り掛かった「夫の海外赴任」。悩んだ末、2013年、家族でタイに引っ越すことを選択した。海外で生活する共働き世帯ならではの立場から、考えたこと、挑戦したことを綴る――。

娘から「ほとんど理解できなかった」と言われた初日

 小学校入学後初めての登校日は、なんだか親のほうが緊張してソワソワしてしまうもの。

 娘がインターナショナルスクールに通い始める時の私たちもそうだった。先生や友達の英語をどこまで聞くことができるのか、正直不安もあったのだと思う。

 最初の3日間、帰って来た娘が言った言葉は「先生の言っていること、ほとんど分からなかった」だった。それもそのはず。日本の公立保育園ではずっと日本語で、英語を使うのは週1回の習い事のときだけだったのだから(詳しくは前回の「英語習得に必要なものは、日本語の語彙力」へ)。

 それでも、1つでも先生とやり取りできたことは毎日褒め、「頑張れ」と言って家を送り出した。そして、娘が帰って来たら、学校でやったことや感じたことに加えて、「本当は言いたかったけど、言えなかった英語があったら教えて」と聞くのが日課となった。

 でも驚くことに、ほとんど話せない状態だった娘が、「英語が分からないから楽しくない」と言ったのは最初の3日だけ。その3日間も、それ以降も、私たちは手探りながらも必死にフォローをした。

 まずは、娘が学校に慣れること。その環境づくりが夫婦の最優先事項だった。

親子一緒に困難を乗り越えたことは、英語習得より貴重だった

 2日目に、「どのバスに乗ればよいかが分からなくなって泣いちゃった」と聞いた日は、「私が乗るバスはどこですか?」と書いたメモ用紙を用意した。「いざというときに読み方を忘れちゃうかもしれないから……」と心配する娘のために、英語の上にカタカナで読み方も添えた(発音を日本語で書いたのは、このときが最初で最後だった)。

 その後、娘が練習したいと言うので、私と夫と3人で「私のバスはどこ?」「あそこにある○番のバスだよ」という会話練習を10回ほどしただろうか。

 翌日、「ママのメモがあるから大丈夫!」と元気に登校していき、「今日はちゃんと聞けたよ!」と帰ってきた、あの満面の笑みを私はきっと一生忘れない。

 親子で「困難な状況を乗り越える」という経験ができたことは、英語を習得していくこと以上にプラスになったと感じている。