31歳を過ぎた頃から、いつ妊娠しても大丈夫なように仕事を少しずつセーブし始めました。翌年のツアーも決まっているという状態で、「子どもができました」なんてことになったら大迷惑をかけてしまいます。それはしちゃいけないことだと思っていましたから。

 結婚して夫と2人っきりで生活していた時、私はほぼ“主婦”。朝起きて、掃除、洗濯、料理をして、銀行で振り込みをして……と、それまでできなかったいわゆる普通の生活を送り、大人としての一般常識を身につけ、禁煙もして、妊娠に向けて万全の態勢でスタンバイしていました。

子どもをあきらめかけた矢先に妊娠。30代で2回の出産を経験

 なのに、子どもはなかなかできなかった。母からも「子どもがいない人生もそれなりよ」なんて言われ始めて、それじゃ……と仕事を始めた矢先に、妊娠。34歳で長男を、36歳で長女を出産しました。

 「始まったわね」

 長男が生まれた直後、母がニヤリとしながら言った言葉がコレ。

 そう、本当に始まってしまった。それからの子育ては想像以上に大変で、音楽のことを考えている場合じゃなくなりました。夫にした「お願い」もすっかり忘れ、音楽から離れて子育てに追われる日々が始まりました。

 それから約8年間、音楽、つまり仕事を休んでいました。

 「休み、長過ぎない?」
 「そんなに休むなんてありえない!」……なんてよく言われます。
 その言葉の裏には、「そんなに休んでいたら、第一線に戻れなくなるよ」という知人・友人たちの心配があるような気がします。

元の場所に戻りたかったら出産を選ばなかった。私には別の場所があると感じていた

 プリプリ時代と同じような活動を続けたかったら、出産を選ばなかったかもしれません。でも私は、違う形での音楽のやり方もあると思っていた。せっかく子どもができて家族が増えたのなら、妻として、母としての生活を送る人なりの、別の表現の仕方があるはず――。自分が座る椅子は、別の場所にあると思ったんです。

 電車の座席から立てば、そこには別の誰かが座ります。もし同じ席に座り続けていたいなら、立たないほうがいい。でも私は、それまで座っていた場所には固執しない。座れなければ別の車両に空いている席を探しにいくし、立ったままでも別にいい。それはそれで楽しそうだよね……。

 音楽も同じように考えていました。出産を迷っている音楽仲間にも、いつもそんなことを話します。これだけたくさんのアーティストがいる中で、一度空いた席は、すぐに別の誰かに座られちゃうことはありますから。

 私が会社に勤めていたとしても、産む前と同じポジションに戻りたいのなら、仕事は辞めないほうがいいだろうし、産休も育休も最短にして、戻るほうがいいだろうって思います。