あくまでポジティブな彼に、救われる。旧来の校長先生が持つ「重み」の代わりに、フットワークの軽さで学校を活気づける。最新の教育事情を勉強し、わかりやすく伝える。私に伝統的な校長先生像を求められても、答えられない。その代わり、「子ども達の成長」で返すしかない。

「仕事スイッチ」は、あえて切らない

 夜遅く、子どもが寝静まった家に帰る日もある。私の一番の楽しみは、保育園の連絡ノートとクラス通信を読むことだ。友だちと関わり合いながら育っていく、親の知らない姿がそこにある。次に娘と会った時の、話題になる。

 遠足の様子を読みながら、仕事スイッチが入る。この4月から、学校ホームページをこまめに更新するようになった。親子の会話のきっかけにしてもらう、もう一押しの工夫はないだろうか。疲れた頭が急に冴えはじめ、はっと気づく。

「ふれあい国際交流」で日本語を学ぶ留学生達が敷津小に来てくれた。日本語だから、低学年でも交流しやすい。子ども達がどんどん話しかける姿と、母国を飛び出して学ぶ若者達に学んだ1日だった
「ふれあい国際交流」で日本語を学ぶ留学生達が敷津小に来てくれた。日本語だから、低学年でも交流しやすい。子ども達がどんどん話しかける姿と、母国を飛び出して学ぶ若者達に学んだ1日だった

 私は、仕事が好きだ。紛れもなく、好きだ。それは、我が子かわいさや親としての責任とは、別の場所にある。18歳で家庭教師のアルバイトを始めた時から、ずっと。

 教え方の工夫で、子どもが伸びた時のうれしさ。子ども自身が決めている限界を、励ましながら一緒に突破できた時の快感。大人の予想を超えた答えに、目を開かされる瞬間。

 教育現場に戻れて、私は幸せだ。

 育児期と重なったことをプラスに変えなければ、敷津小の子にも我が子にも失礼だ。

 仕事スイッチを切るのではなく、半分入れたままで我が子と過ごしてみる。仕事中も、ときどき親スイッチを入れてみる。

 大阪市では1人1台のタブレットを配布する方向で、進んでいる。実際、学習には効果的だ。今、息子から必死でタブレットを取り上げようと格闘する自分が、滑稽にも思える。中高生はスマホを握りしめてSNSやゲームにハマり、勉強時間が減っている。年齢を問わず誘惑の多いデジタルツールを、どう使いこなすべきか。

 新しいツールとの付き合い方は、すぐに答えを出せない。テレビと違って区切りがつきにくいことも原因だ。セットした時間になれば、電源が落ちる幼児用アプリはできないだろうか。時間が来たら、容赦なくロック画面になる方法はある。それでは、理屈のわからない子どもはなかなか納得しない。

 「いっぱい遊んだね!」と言葉でふりかえると、子どもは満足感をもって区切りをつけられる。終了時間になるとキャラクターが画面に出てきて、語りかけてくれる。「○○ちゃん、今日はいっぱい遊んだね、楽しかった?また今度会おうね、バイバイ!」と言ってくれる。プリキュアのように、ダンスで終わるのもいい。本気で、もし「今日はおしまいアプリ」作った人がいたら、ぜひ教えてほしい。

 「幼児には与えない」という解決策を出さない私を、批判する教育関係者もいるだろう。確かに、1歳児には早かったと反省しているし、できるだけ遠ざける努力はしている。でも、彼らはスマホネイティブとして、これからの時代を生きていく。私が小学生の時、ゲームウォッチが流行った。次に、ファミコンが流行った。47歳の夫は、完全なるテレビっ子だ。いつの時代も、子どもを誘惑するアイテムは登場する。だったら、前向きな付き合い方を考えなければならない。