『ぐりとぐら』をはじめ、児童文学作家として世代を超えて親しまれる童話を多く送り出してきた中川李枝子さん。『いやいやえん』や『ぐりとぐら』(ともに福音館書店)などほとんどの作品は、保育士として保育園で働き、子育てをしながら生み出されたもの。児童文学作家、保育士、妻、母親という様々な顔を持って歩んできた中川さんが、ママやパパ達の悩みに答えます。

Q.母親から「保育園に預けるのはかわいそう」と言われたら?

相談者 女性 フリーランスライター 32歳(妊娠6カ月)

 出産後も、子育てと仕事を両立していくつもりですし、したい気持ちはあります。一方で、仕事をすることで育児がおろそかになり、子どもに寂しい思いをさせてしまわないか不安もあります。経済面だけを考えると、夫の収入だけでやっていけないことはありません。また、私の母親は専業主婦、義母も専業主婦で子育てをしてきた母親です。今後、子どもを幼いうちから保育園に預けることで、「かわいそう…」などと言われるかもしれません。そこで「なぜ自分が働くのか」という理由をきちんと固めておこうと思います。中川先生が働き続けた理由を教えてください。

A.母親になっても、一人の人間として選択すればいい

──第1回の相談者は…、実は私です。子どもが生まれる前に「なぜ自分が働くのか」を自分でも再確認しておきたいと考えています。ぜひ中川さんが働き続けた理由を教えていただきたいのですが。

 私は仕事をやりたいからやっていただけですよ。やりたいからやる、やりたくないことはやらない。それ以外何も考えなかったわ(笑)。

 都立高等保母学院を卒業してすぐ、無認可の小さな保育園「みどり保育園」(東京都世田谷区・現駒沢オリンピック公園)に就職しました。保母ほど自分の能力を発揮できる場所はないと自信満々で、日本一の保母になることが目標でした。子ども達をどうやって楽しませようか考える毎日は、本当に面白かった。結婚、出産したからといってその思いは特に変わらなかったし、夫の仕事や収入にかかわらず、自活することは自然なことでした。

──いつからそれが「自然」だと思い始めたのでしょうか?

 小学生のときに読んだ『寡婦マルタ』というポーランドの小説が、強く影響していると思います。岩波文庫が大好きだったから、漢字+カタカナのタイトルはきっと面白いだろうと予想して手に取ったのだけど、おとぎ話のような世界では全然なくて。女性の地位の不安定さを生々しく描いた女性のための啓蒙書でした。

 主人公は美しい女性・マルタ。結婚して娘を出産、幸せな結婚生活を送っていた。ところが夫が交通事故で急死。蓄えもなかったことから、小さい娘を抱えて生活に困窮する。女学校で身に付けたフランス語やピアノ、美術を生かしてまずは家庭教師の仕事を探すけれど、お金を稼げるほどのレベルではなくて。やっと見つけた仕事は低賃金の洋裁店の縫い子で、どんどん生活は追い込まれていく。かなり悲惨な結末を迎えていて、子ども心に「女といえども、世の中に通用する仕事を持たないと大変なことになる」と刻まれました。