「積極的な諦め」を選択する女性達

 「本当はこっちのことをしたいのに」と考えつつも、「仕方ない」と思いながら、それでも子どものことを優先しています。何となく、どこかに「諦め感」があるように思えます。

 ただ、それがいつも消極的な諦め感ではないのも確かです。彼女達は、時として積極的に諦めているとも言えるのではないでしょうか。

 このことについて、詳しくはこの連載で後述しますが、消極的な諦め感のイメージが世の中には強いのではないかと思います。

 また、だからこそ、両立していくのは大変だと思われているのではないでしょうか。

 女性の高学歴化が進み、社会で活躍できる場が増え、男女雇用機会均等法などの法整備の成果で、一人で生きていくことの自由を手放さなくても、きちんと働けば一人でも一生食べていける女性の働き方が実現しているのも確かです。

 その自由を手放すことは、自分のしたいことを諦めること(ここで感じるのが、私が考える「消極的な諦め感」ですが)と思われている気がしてなりません。

 結婚しない男女、子どもを産めるのに産まない女性の増加は、こうした思いにも原因があるように思えます。

卒業後に働くのは当然 でも、身近にロールモデルがいない

 現代では、学校を卒業したら家事を手伝い、花嫁修業をして数年で結婚するといった「女性の姿」は、既に化石化したように思えます。

 私(田中)自身、多くの大学生と過ごしてきて、卒業したら「働く」という価値観は、今や男女共通のものになったのだということを実感します。

 こうして社会への入り口のところでは、男女ともに働くことに対する意識は同じになってきたと言えるのですが、問題は、その後です。

 働き出して数年してから、「私はいつまで働くだろう」と考えるのは、たいてい女性です。「いつまで」という期限を考えるということは、その裏には「途中で辞める可能性がある」ことを薄々感じているのです。

 この点で男性には「いつまで」という選択肢が、職業生活の途中にはほとんどありません。彼らは多くの場合、少なくとも「定年を迎えるまでは」働くだろうと思っています。

 では、女性が感じている「途中で辞める可能性がある」という感覚は、具体的に何を想定しているのでしょうか。

 これまで女性にとっての職業生活の岐路は、多くの場合、結婚、出産、子育てといったタイミングで出現してきました。これらのどこかのタイミングで、仕事を辞めることを選択してきた女性達を、今の若い女性達は世の中のイメージと重ね合わせて持っています。

 一番身近な女性の生き方として自分の母親をロールモデルにすることは、彼女達にとっては自然なことでさえあるのですが、今のところ、この母親世代の多くは、学校卒業後に就いた仕事を、結婚や出産でいったん辞め、その後ずっと専業主婦で過ごすか、子育てが一段落してからパートなどの非正規労働者として仕事の場に戻るというモデルを提供してきた世代です。

 この女性の働き方(正規従業員で就職 → 出産・退職 → 非正規従業員で復帰)のイメージが、女性自身だけではなく、まだまだ世の中全体に根強いのです。

 今、社会を動かしている人々の世代の母親モデル、女性モデルがそうなのですから、男女ともにそれが根強く残っているのも必然的なことかもしれません。