夫婦には“あうん”の呼吸があり、簡単に通じるから単語だけでもいいと思う人もいるかもしれませんが、思考訓練が必要な時期の子どもには、それは大きなマイナスとなります。語彙や言語感覚や言葉の使い方は、日々の暮らしの中で自然に身に付いていくものだからです。

 最近は、幼いうちから子どもに英語教育を施そうという傾向もあります。でも、母語である日本語の能力を超えて、別の言語である英語は理解できません。英語教育以前に、国語教育、もっと詳しく言えば、日本語を使った思考訓練が必要だと考えます。そして、その基盤となるのは家庭内の会話なのです。

 日ごろの会話だけでなく、勉強のときに自分の言葉で話す訓練をするのもとても有効です。ある問題を前にして、子どもに、
「何がわかっていると思う?」
 「何を聞かれていると思う?」
 「どんな方法で解けると思う?」
 と質問し、子どもは“文章”で答えるというルールにするのです。
 「この問題では何が分かっていると思う?」
という問いに対して
「速さ」
という単語だけの返答ではなく、
 「Aくんが出発した時の分速と、10分後に出発したBくんの秒速がわかっている」と答えられれば、あとは子どもが自力で解いていくことができます。なぜなら“文章”にして話すことで、子どもの考えも自然に整理されていくからです。

聞き上手でなければ学力は伸びない

 もうひとつ、話をする時に欠かせないのが、相手の目を見ながら話を聞くことです。最近、私が強く実感しているのは、「聞き上手な子どもほど、学力は伸びる」ということです。

 きちんと人の話に耳を傾けられない子どもは、どうしても情報を聞き漏らしてしまいます。大事な要素をまだ聞かないうちに、勝手に自分なりに解釈して違う方向から考えはじめたり、問題を解きはじめたりしてしまうのです。

 そして子どもを聞き上手にさせたいのであれば、お母さん自身がお手本にならなければなりません。どこか別のところを見たり、ほかのことをしたりしながら子どもに話すのではなく、きちんと子どもに向き合って語りかけてください。そうすれば、子どもも自然に母親のほうを向いて話すようになります。それでも子どもが相手である母親を見て話さない場合は、
 「ちゃんとこっちを向いてね」
と注意しましょう。

 会話というのは、決して言葉だけで成り立つものではありません。表情や目線などの非言語コミュニケーションの役割も、とても大きいのです。

接続語が使えるのは論理的思考ができる証拠

 きちんとした“文章”で話す癖をつけると、日本語の文法もおのずと身に付きます。すると、こんなところにもメリットがあります。「てにをは」を上手に使える子どもは算数ができると言うと、驚く人は多いかもしれません。でも30年以上にわたって数々の子どもたちを見てきた私の経験上、算数ができない子どもの多くは、「てにをは」をうまく使えないのです。