短時間勤務で生産性を上げた人が、正当に評価されない仕組み

 1つ目は、育休から復帰した女性が、時短制度を利用し、難しい仕事へのチャレンジを諦めて、割り切って仕事をしてしまうケース。

 育休復帰後、間もない女性社員の多くは、「働ける時間は短くなったけれど、今までと変わらないアウトプットを出そう」と工夫してがんばっています。例えば、通勤する電車の中で1日のダンドリを考え、最短の時間で仕事を片付けていきます。産休取得前よりも作業効率を格段に向上させ、限られた時間の中で以前と変わらないアウトプットが出せているという自負があるのです。

 ところが、半年後の賞与の査定の時期になると、どうでしょう。以前より、査定が1ランク、2ランク下がっていることに気付く人は少なくありません。
 「仕事のアウトプットは変わらないのに、どうして評価が下がるのか?」「雑談ばかりしているAさんに比べて、私のほうが生産性が高いのに、なぜ?」といった理不尽な気持ちが湧いてくるのです。
 「会社では、残業できて初めて評価されるもの。夜遅くまで会社にいて、上司から『おい!』と言われたときに『はい!』と返事ができないと、使えない人材だと烙印を押されてしまうんだな」と、しみじみ感じるのです。

 これでは、どれだけがんばってアウトプットを出しても意味がありません。がんばるほうが苦しいから、仕事を割り切るようになる。本来は能力が高い人なのに、投げやりの気持ちが生まれてしまうのです。

長時間労働ができない介護世代が、仕事での成功を諦めてしまう

 2つ目は、家族の介護の必要が生じてくる管理職のケースです。

 3年後の2017年には、団塊世代が一斉に70代に突入します。つまり団塊ジュニア世代は、親の介護に追われるようになる。団塊ジュニア世代にとって、介護をしながら働くことが常識となり、時間に制約がある人がどんどん増えていくのです。

 彼らの多くは、長時間残業をこなしてガムシャラに仕事をして、時に「勤務時間に制約がある人には仕事を任せられない」などと言ってきた人たちです。彼らは「昇進できる人」=「出張・残業・転勤の3セットを難なくこなせる人」と考えている傾向が強い。そして、自分自身の勤務時間に制約ができてしまうと、そのどれにも簡単には対応できなくなるため、「自分も昇進できなくなる」と思い込んでしまいます。

 そして親の介護が必要となった瞬間に、管理職の男性は「自分は、社内ではもう戦力外になってしまった」と諦めてしまう人が多いのです。キャリアに夢を持てなくなり、「難易度の高い仕事は僕じゃなくてBさんにお願いして。僕はもう、キャリアに未練なんてないんだよ」と、あからさまに投げやりな態度に変わってしまうこともあるのです。これは、本人のみならず、会社にとっても大きな損失だと思います。

一度、メンタル不全を起こすと、完全復帰が難しいという職場が多い

 3つ目は、若手世代に増えているメンタル不全の人の問題です。メンタル不全から一時復帰した際に、周りに合わせて無理をして働き、体調を崩して再び休みに入ってしまうケースをよく聞きます。

 私傷病休暇制度を整えて、上司が「休んでいいんだよ」と伝えても、周りが長時間労働をしていると、結局無理をしてしまう。そうしないと評価されないと感じてしまうのです。メンタル不全からの復帰直後は、本来はまだ心身の状態の起伏が激しい時期。その日は調子がよくても、次の日は調子が落ちてしまうこともある。調子がいい日に「もう大丈夫です」と、無理をして長時間労働を始めて、翌日気持ちが落ちてしまったら、会社に来られなくなってしまいます。休む日数が徐々に増えていき、タイムリミットを迎えて、貴重な人材を退職させることになってしまうのです。

 これからの時代、育児中、介護中、メンタル不全からの一時復帰など、時間制約がある社員が増えていきます。長時間残業を前提とする働き方に対する意識を、全員ができるだけ早く変えなければ、「割り切り型」「投げやり型」の社員の急増につながってしまうと私は危惧しています。仕事熱心な人ほど、育休や介護によって時間に制約ができることで、自分のキャリアを見失ってしまい、仕事に対して投げやりな気持ちになってしまう事態が起こっているのです。