「ワークライフバランス(WLB)」という言葉は、「早く帰ること」「仕事のムダを削ること」と、短絡的に解釈してしまいがちです。ワーク・ライフバランス社代表取締役で、900社の働き方改善を手掛けてきた小室淑恵さんが、先日、都内の会場で開催したセミナー「WLB実現のための働き方改革:社内実例づくりから、全社展開への流れ」のリポートを4回に分けてお届けします。部下の残業を削減したいと思っている上司、管理職、人事担当者、そして、自分自身の勤務時間をどうにかして減らしたいと思っている方、必見です。

なぜ長時間労働を減らす必要があるのか、ピンと来ていない人は意外と多い

 「ワークライフバランス」の取り組みを始めると、「なぜそもそも長時間労働を減らさなければいけないのか」という点に、まず疑問を持つ人が少なくありません。
 育児や介護など、早く帰宅する事情がなければ、時間が許す限り働いたほうが、会社への忠誠心を示すことにもなり、社内での評価が高くなる傾向も否めません。長時間働いた方が、取引先からも「残業してまで、すぐに対応してくれていつもありがたい」と思ってもらえることもあるでしょう。

 私はこれまで様々な企業に出向き、働き方改善のコンサルティングを手掛ける中で、「そもそも、なぜ長時間労働を減らす必要があるのか」というテーマへの関心度合いについて、同じ会社の中ですら温度差があると感じています。

 例えば、人事担当者は長時間労働の削減の必要性を強く感じている場合が多いのです。でも、人事部以外の部署の社員にはその危機感が全く共有されていない。そのせいで、長時間労働削減のために優秀な人材に協力してもらうことも難しくなってしまう。このように、社内で意識がそろっていなければ、長時間労働の削減はうまく進まないのです。

 最近は、育児休業から復帰する女性社員や、家族の介護を抱える管理職も急増してきました。また、メンタル不全によって勤務時間を短縮せざるを得なくなり、そのまま長期休暇に移行してしまう社員もいます。

休業や短時間勤務など、社内制度の整備が進んだ今、問題が続出している

 育児休業や育児のための短時間勤務、介護休業、介護のための短時間勤務、私傷病休暇など、社内制度は徐々に整備されてきています。

 法定では、介護休暇は93日間ですが、日数を上乗せしている企業もあります。短時間勤務制度も、法定では子が3歳に達するまでという規定ですが、子どもが小学校に入っても利用できるケースもあります。このような優れた制度を社員に浸透させるため、分かりやすいガイドブックを作って社員に配っている企業もあります。

 ところが、これだけ制度が整ってきた今、まさに問題が起きているのです。
 主な問題として、以下の3つが挙げられます。