「家事はほぼすべて僕が担当。共働き家庭だけど、これが一番いいバランス」

 吉岡満彦さん(43歳・仮名)は電機メーカーの技術営業職。出張も多く、忙しい毎日だが、毎日19時には退社するよう心がけている。

 帰り道にスーパーに寄って食材を見繕い、20時までに家に帰ってちゃちゃっと食事を作る。その手つきは慣れたもので、あっという間に数品のおかずが完成する。娘のお迎えは、妻の担当。帰宅した2人をおかえりなさいと出迎え、家族3人で食卓を囲む。そのあとの片づけや深夜の掃除、洗濯もすべて、夫である吉岡さんの担当だ。

 「今では家事のほぼすべてを、僕が担当しています。妻の友人たちからは『イイ旦那さんで羨ましい!』などと言われますが、初めからこうだったわけではないんですよ。紆余曲折あって、このスタイルが一番、私たちに合っているとわかったんです」

「会うためには一緒に暮らすしかない」とプロポーズ

 ――6つ年下の妻と出会ったのは、今から10年前のこと。プライベートで参加していたボランティア活動の場だった。妻はまだ26歳の若さながら、ネットベンチャーの広報リーダーを任され、昼夜ないほど忙しく働いていた。一方の吉岡さんは、当時は工場内にある技術開発部に所属し、新技術開発に取り組んでいた。

 「うちの会社は、タテ社会で労組が強くて…という昔ながらの企業体質。僕は工場内にある研究チームに所属していたので、勤務時間もキッチリしていて、残業はほとんどありませんでした。だから、ネットベンチャー勤務で、若くして広報リーダーとして第一線でバリバリ働いている彼女が、とても新鮮に映ったんです」

 食べ歩きが趣味で、ワイン好きという共通の趣味もあり、意気投合。すぐにお付き合いがスタートしたが、休日出勤も多い彼女とは、なかなかデートの時間が取れなかった。結婚したのは、出会ってから1年後のこと。「あまりにも会えないから、会うためには一緒に暮らすしかないと思って、プロポーズしました」と笑う。

 とはいえ、結婚しても、仕事の忙しさは変わらない。毎日終電近くに帰ってくる彼女のために、帰宅が早い吉岡さんが食事を作るようになった。吉岡さんの職場から自宅までは、車で30分。帰りにスーパーに寄っても19時過ぎには家に着く。一方の妻の帰宅は、早くても23時だった。

 食事を作り、ついでに掃除や洗濯もこなし、帰宅を待つ。そして日付が変わるころに妻と一緒に食卓を囲み、軽くワインを飲みながらその日あったことを話し合うのが日課になった。

 「一日働きづめで、クタクタなはずなんですが、『今日は会社でこんなことがあってね…』と話す彼女の表情はイキイキしていました。本当に仕事が好きなんです。私自身も、彼女の話を聞くのがとても楽しみでした。ベンチャー企業の意思決定の速さや、若手社員にも責任ある仕事を任せる風土が伝わり、毎日ワクワクさせられましたね」

 と、初めは新鮮で楽しく、お互いのバランスも取れていた(と思っていた)新婚時代。しかし、数カ月が過ぎ、徐々に「…あれ?」と思うようになる。