園の保育理念の中心は、食育、自然、そして芸術の3つ。

 特に注目すべきは、長年ヨーロッパの福祉や教育を視察した経験を元にした、芸術を中心としたアプローチだ。

絵の具を使って明るいベランダにある美術のお部屋のスペースでペイントタイム(2歳児)
絵の具を使って明るいベランダにある美術のお部屋のスペースでペイントタイム(2歳児)

耕作展示「こども美術館」では作った過程も大切に

 「芸術と言っても、工作的なものだけがアートではありません。一般的に芸術には、文芸、美術、音楽、演劇、建築なども含まれています。そう考えると、子どもがやるようなことは全部芸術なんです。造形工作などだけではなく、絵本もごっこ遊びも体を動かして遊ぶことも。日常生活から生まれる芸術を大切にしつつ、自分で表現したいと思うことを、子どもたちが様々な方法で表現をしていいんだよという場にしていきたいと思っています」

 前述の5つのゾーンに分かれた「しぜん谷」もその1つだが、行事にもその姿勢は現れている。年に1度の工作の展示などをしていた生活発表の会を、4年前から「こども美術館」として生まれ変わらせた。作品の結果よりも作った過程を大事にし、子どもたちがなぜその題材や色や素材を選んだのか、どのようにして作られたのかというエピソードをパネルで展示したり、その場でワークショップを開いて子どもたちが参加したりと、これまでにない発表方法だった。

こども美術館では、作品だけでなく、子どもの制作過程やその時の様子、成長による表現の変化などをパネルに写真と共に紹介
こども美術館では、作品だけでなく、子どもの制作過程やその時の様子、成長による表現の変化などをパネルに写真と共に紹介

 「子どもによって異なる制作過程のエピソードを大事にしたいと思いましたが、見せ方や内容は試行錯誤の連続でした。保護者にどのように受け入れられるか不安でしたが、来てくださった方々から『感動しました!』という声をいただけて嬉しかった。作品の完成度が上手、下手ということではなく、一人ひとりの取り組みや成長をちゃんと伝えたかったのです」

運動会では里山を駆け抜ける全員リレーも

 運動会も同様に、その日だけに発表する演技や体操を見せるのではなく、子どもの成長の通過点の一つと捉え、普段から里山で駆け回る子どもたちの能力を発揮できるものにした。代表的なのは、4、5歳が取り組んだ全員リレー。開けた園庭の広場だけでなく、里山の林の中を駆け巡り、裸足で竹に上り、転がる木のドラムの上を乗りこなし、次へとバトンをつないでいく。途中には坂も階段はもちろんのこと、里山から園舎の中まで縦横無尽に走り回る。

運動会の全員リレーで竹をスイスイのぼる男の子。いつもやっているのでお手のもの
運動会の全員リレーで竹をスイスイのぼる男の子。いつもやっているのでお手のもの

 「普段から里山を走り回っている子どもたちは、何が危ないのか、どうバランスをとるのか、きちんと自分たちで身に付けています。足の裏で感じる情報力は大きいのです。一度、大学の教授に協力してもらってこの園の子どもたちの身体能力を調べてもらったことがあるのですが、一般的な基準値とは桁違いの良い数値が出ました。また、それは今後成長していくときの勉強への学習能力にも影響してくるそうです」

 運動会では、他にも1カ月ほど前からトーナメントを行う子ども相撲の決勝戦が行われたり、山の中で親子で宝もの探しをしたりと、この園ならではのプログラムが組まれている。子どもも親も保育士も、そして地域の人もみんなで参加し、みんなで作り上げる行事なのだ。