5つのゾーンは、ブロックやつみきがある「建築のお部屋」、絵の具があったり光や影で遊んだりできる「美術のお部屋」、衣装やごっこ遊びの「演劇のお部屋」、観察したり絵本を読んだりできる「研究のお部屋」、そして楽器などがある「音楽のお部屋」。そこでは、先生たちは教えるのではなく、あくまで子どもたちの援助、助言役に回る。一人ひとりがのびのびと自由にできる時間であり、居場所なのだ。
さらに里山でもある広い園庭を案内してもらう。
「こっちがこうめちゃんです」と指差された方向にいたのは、なんと鹿! 里山の小さな斜面部分をうまく利用した囲いで穏やかに過ごす鹿が1匹。ほかにも、キツネやクジャク、羊なども生活している。
里山の起伏には必ずしも緩やかな道や階段がない場所も多くあるが、全く気にする様子はなく駆け降りる子どもたち。つい、「あぶない!」と声を出してしまいそうになるが、本人たちは全く気にする様子もなく、慣れた様子。
「ここでは、大きなケガはほとんどないんですよ。大人が危ないと思って止めてしまうより、子どもたちは毎日ここで走り回っていることでちゃんとケガをしない能力を身に付けているんです」
園舎のある山の上から見下ろした広場の真ん中には、盛り土とモザイクでできたうてなのような高台があり、子どもたちは起伏のある地形をものともせず軽快に走り回って遊んでいた。
子ども一人ひとりのストーリーを重視した保育活動
1979年に開園したしぜんの国保育園は、すでに30年以上この地で運営され、地域の人々とも深くつながってきた。運営母体は、社会福祉法人東香会で、他にも2つの保育園を経営している。実は、この園を立ち上げた現在の東香会理事長は、隣接する簗田寺の住職でもある。保育園では、特に宗教教育は行っていないが、子どもたちは保育園入り口の石のお地蔵様に手を合わせ、眼に見えない存在に対しての敬意を自然と身に付けている。
現在は、寺の後継者でもある齋藤紘良さんが2代目の園長となっている。4年前に園長に就任してから、子ども一人ひとりの意思や能力を尊重し、保育のあり方を考え、意欲的に新たなことに取り組んでいる。
「教育は、教え育てると書きますが、上から教えるのではなく、子どもが自発的にやりたいという気持ちを持って成長していけるにはどうしたらいいかを常に問いながら園での取り組みを考えています。子ども一人ひとりが持つストーリーを大事にし、成長を見逃さないでいきたいと思うと、保育のあり方も再検討する必要があると感じました。子どもたちが大人になったとき、自らの個性を持って、存分に社会に関わっていける力をつけてあげたいですね」