例えばアーミーナイフ。男性と違って、女性はアーミーナイフを使ったことがない人が多いんですが、それ以前に、最近では缶切りを使ったことがないという女性もいるんです。だから、アーミーナイフの缶切りで缶詰を開けてみる。最初は難しいんですが、繰り返し体験しているうちに、楽しくなってくる。「次はあれを試してみよう」「今度はこれに挑戦してみよう」と、非常時のために備えたものをあれこれ使ってみたくなりますよ。

3歳児はホイッスルを吹けなかった

 大人が当たり前のように「できる」と思っても、子どもができないことも多いんです。

防災を考えながら避難場所まで歩いてみるだけでもいろいろな気づきがある
防災を考えながら避難場所まで歩いてみるだけでもいろいろな気づきがある

 たとえば避難グッズには、たいてい大人とはぐれたときや足などをはさまれて動けなくなったときのためにホイッスルが入っているのですが、3歳くらいの子どもだと音が出ない子も多いんですよ。スカーと空気が抜ける音がするだけで。親が促して、2回、3回と繰り返すうちに、すぐに音が出るようになるのですが、これが非常時で自分1人だったら1回であきらめてしまうかもしれない。

 平時だから大人もリラックスしているし、子どもも失敗できる。屋外に行くことで、屋外に行くことで、いろいろと試すことができますし、家の中ではわからないことも見えてきます

──アウトドアが苦手な人でも気軽に楽しめそうです。

 こんなこともありました。防災ピクニックに参加した4、5歳の子ども達でゲームをしたんです。ブルーシートの上にヘルメットを並べ、それをかぶって、スニーカーを履いて、10メートル先に置いたホイッスルを最初に鳴らした人が勝ち、というルール。これでヘルメットをかぶれるか、靴を履くのにどのくらい時間がかかるか、音を出してホイッスルを吹けるかが確認できるはずでした。盛り上がりそうでしょう。

 でも、実際にやってみたら、ヘルメットはしっかりかぶれたのですが、靴を履く段階になって、ある男の子が「え~、靴を履いちゃいけないんだよ」と言い出すんですよ。「そのまま逃げろって言われた」。じゃあ、そのまま歩いてみたら、と言うと、やっぱり「足が痛い」となる。結局、「避難訓練じゃあ靴は履かなかったのに……」とぶつぶつ言いながら、とぼとぼ歩いて行きホイッスルを吹いて終了。親が予想していたようには、まったく盛り上がりませんでした(笑)。

「MAMA-PLUG」の冨川さんは、自身も5歳の娘の母親でもある
「MAMA-PLUG」の冨川さんは、自身も5歳の娘の母親でもある

 後で幼稚園の先生と話す機会があったのですが、やはり「靴を履かずに出る」とは指導していないそうです。ただ、避難訓練では上履きを履いているときは、靴を履き替えずに、そのまま外に出ている。

 大人だったら「今は上履きを履いているから、そのまま外に出ても大丈夫」と判断できますが、子どもにはそこまで判断できないことがあるんですね。これは意外な気づきでした。

 大人が常識だと思っていても、子どもはそうは思っていない場合がある。それからは防災ピクニックでは、普段できない非日常をちょっと体験させるようにしています。避難場所までわざと歩きにくいところを歩いてみる、和式のトイレを使わせてみる。子どもは吸収力が高いので、すぐにできるようになります。

 そういう体験を親子で楽しむことで、防災が遠い存在ではなく、身近に感じられるようになる。それが防災ピクニックの目的なんです。

(文/日経DUAL編集部 大谷真幸 撮影/菊池くらげ 撮影協力/Pico Pico Cafe